『暗殺の森』あらすじ/ロケ地/キャストの現在【ネタバレ考察レビュー】

暗殺の森 映画

ベルナルド・ベルトルッチ監督の代表作として知られる、イタリア映画『暗殺の森』。

1970年のベルリン国際映画祭で大きな評判をよび、全米映画批評家協会賞監督賞受賞、またアカデミー賞やゴールデングローブ賞などにもノミネートされ、国際的な名声を得るきっかけとなった傑作です。

本記事では、すでに50年以上前となる本作の概要にくわえ、主要キャストのその後と現在、印象的なロケ地の紹介、最後にネタバレありの考察レビューをしたいと思います。

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ベルナルド・ベルトルッチ監督の名を世界に知らしめた『暗殺の森』

アルベルト・モラヴィア著『同調者』(旧題:孤独な青年)を原作に、『ラストタンゴ・イン・パリ』や『ラストエンペラー』などの傑作を世に送り出し、2018年に77歳で亡くなった巨匠ベルナルド・ベルトルッチが、29歳の若さで発表した1970年公開の映画が『暗殺の森』です。

第二次世界大戦前夜のイタリアとフランスを舞台に、幼少時の事件からあるトラウマを抱えた青年が、ファシズムに身を投じ、恩師暗殺の指令を遂行する姿とその後の精神的破綻を描きます。

現在と過去を交差させつつ、官能と陶酔に満ち溢れた物語世界はもちろん、ビットリオ・ストラーロの撮影による比類なき映像美は圧巻です。

ちなみに、ベルトルッチ監督は、同年、『暗殺のオペラ』という別の名作も手掛けていますが、こちらはもともとテレビ映画として発表されたものであり、「暗殺」の共通ワードも邦題として日本が意図的に使用したにすぎません。

『暗殺の森』のあらすじ(閉じページにネタバレあり)

映画は冒頭、パリに滞在するマルチェロが、ホテルに新妻を残し、護衛のマンガニエーロとともに、まさに恩師暗殺の場に向かうシーンに始まり、そこに至るまでの過去を織り交ぜながら展開します。

1938年のイタリア、ローマ。13歳だった自分を犯そうとした運転手の男リーノを殺めた過去を持つマルチェロは、「正常」を求めるあまり、俗物の女性ジュリアと結婚し、さらに台頭していたファシズムに生きる道を選びます。

そんな彼に下った指令は、秘密警察となって、パリに亡命した反ファシズムの活動家ルカ・クアドリ教授に近づき、内偵調査すること。教授はマルチェロの大学時代の恩師でもありました。やがて指令は、単なる調査から暗殺に変わります。

マルチェロは天真爛漫な新妻ジュリアとの新婚旅行を装ってパリにやってきます。クアドリ教授のミステリアスな妻アンナに惹かれ、関係を持ち、翻弄されるのですが……。

マルチェロは、アンナの命だけは救いたいと画策しましたが、アンナは自ら別荘に向かう夫の車に同乗してしまいます。

マンガニエーロとともに、別荘へと向かう二人の車を尾行。マルチェロは、助けを求めるアンナを冷たく無視し、ついに二人の暗殺を見届けるのでした。

それから数年が過ぎ……、ジュリアとの間にもうけた幼子と3人で暮らすマルチェロ。一方、国内ではファシズムが崩壊し、ファシストを糾弾する人々で町は荒廃。

そんな街で、マルチェロが目撃したのは、幼い頃、犯されそうになって撃ち殺したはずのリーノが、無様な老醜を晒しながら若い男を誘惑する姿でした。



主要キャストのその後と現在(故人)

主人公のマルチェロ・クレリチを演じたジャン=ルイ・トランティニャンは、その後もフランスを代表する名優として活躍しました。代表作には、本作より前に出演した『男と女』や『Z』、1973年の『離愁』、1994年の『トリコロール/赤の愛』、カンヌ国際映画祭でパルムドールを受賞した2012年の『愛、アムール』などがあります。

前立腺がんを患いましたが医学的治療を拒否し、2022年6月17日、 91歳で死去しました。結婚は三度。2人目の妻との間に一男二女をもうけましたが、次女は生まれてまもなく病死し、女優になった長女マリー・トランティニャンも恋人の暴行により死亡という悲劇に見舞われました。

ルカ・クアドリ教授の謎めいた妻アンナを演じたドミニク・サンダは、本作の前年にデビューしたばかりの新進フランス人女優でした。本作などをきっかけに日本でも抜群の人気を誇り、CMなどに登場したりしました。代表的出演作に、同じくベルトルッチ監督による『1900年』、ルキノ・ヴィスコンティ監督による『家族の肖像』、カンヌ国際映画祭女優賞に輝いた『沈黙の官能』などがあります。

フランスでは2021年ごろの映画まで出演していましたが、近年は目立った活動はありません。1951年3月11日生まれで、2025年1月現在73歳です。

私生活では、映画監督・俳優のクリスチャン・マルカンと交際し、1972年に未婚のまま長男をもうけています。2000年には、アルゼンチン人の大学教授と結婚し、ウルグアイに在住しているようです。

マルチェロの妻ジュリアを演じたステファニア・サンドレッリは、1961年にデビューし、すぐ『イタリア式離婚狂想曲』で注目されたイタリア人女優です。主な出演作には、同じくベルトルッチ監督の『1900年』、スペイン映画『ハモンハモン』、イギリス映画『魅せられて』、イタリア映画『星降る夜のリストランテ』などあり、国際的に活躍しています。

1946年6月5日生まれで、78歳となった今も現役です。

私生活では、イタリア人シンガーソングライターのジノ・パオリと長らく事実婚状態にあり、1964年にもうけた娘アマンダ・サンドレッリも女優として活躍しています。

ルカ・クアドリ教を演じたエンツォ・タラシオは、50年代から80年代にかけて多くの映画・テレビドラマ・舞台に出演し、演技派として知られたイタリア人俳優兼声優です。2006年10月1日、87歳で死去しました。

13歳のマルチェロを誘惑した同性愛者のリーノ(パスクアリーノ)を演じたフランス人俳優のピエール・クレマンティは、1972年に麻薬所持・使用の疑いで逮捕されたことをきっかけに一時キャリアも低迷しましたが、その後も舞台を中心に俳優活動を続けていました。1999年に肝臓がんにより57歳で死去しました。

マルチェロをファシストに導いた盲目の友人イタロを演じたホセ・クアリオは、俳優としてイタリア・フランス映画に多数出演したほか、舞台演出家としても作品を手掛けました。2007年に80歳で死去。

マルチェロの行動を監視・護衛する男マンガニエーロを演じたガストーネ・モスキンは、その後も名バイプレーヤーとして国際的に活躍。アメリカ映画『ゴッドファーザー PART II』にもリトル・イタリーを仕切るヤクザ者として登場します。2017年に88歳で死去しました。



『暗殺の森』重要ロケ地

マルチェロとジュリアがパリで滞在するホテルのロケ地は、現在の「オルセー美術館」です。

実際、「オルセー美術館」は1900年のパリ万国博覧会に合わせて建設された鉄道駅舎兼ホテルであり、改装され美術館として開館したのは1986年になってからのことです。

マルチェロの父が入院する病院のロケ地となったのは、ローマにある建物「Palazzo dei Congressi」です。

もともと1942年のローマ万博博覧会のために設計されましたが、戦争により中断し、1954年になって完成しました。1960年ローマオリンピックではフェンシング会場となったほか、屋上は屋外劇場として利用されています。



『暗殺の森』ネタバレレビュー<個人的考察・感想>

ムッソリーニ政権下のイタリア。

マルチェロは、幼少期の同性愛者からの虐待とそれが引き起こした事件がトラウマとなり、ファシストの道を選ぶ。そこには、心の病で入院している父、自堕落に落ちぶれた母という家庭環境も背景にあっただろう。

ある日、亡命中のかつての恩師を暗殺するよう命じられ、新婚の妻ジュリアを伴ってパリへ。
恩師の美しい妻アンナに強く魅かれながら、結局、冷酷な道を選ぶ。

映像美とは、まさにこの映画のためにあるのではないか、と思われる絵画のような美しさに息をのむ。

光と影が幾何学模様のように交差し、また鏡や室内照明といった小道具たちが確かな意味を持って配置されている。
そこにあるのは、ひたすら上質な叙情と官能だ。

ジュリアとアンナがレズビアンの匂いをさせてタンゴを踊る様子は、映画史に残る名シーンだが、自分は次のシーンが好きである。

マルチェロとジュリアが、夕日が照らす電車のコンパートメントで愛を交わすシーン。
マルチェロとアンナがバレエ教室の小部屋で抱擁するシーン。

もちろん、ただの映像美だけで見せる映画ではない。

過去に囚われたマルチェロ、夫を助けようともがくアンナ、二人の闇が見事に浮かび上がる人間描写が深い。

初めてアンナが登場したときの姿は、マルチェロにトラウマを残した同性愛者の男にどこか似ている気がする。
だから、愛憎入り乱れた感情の中で、マルチェロはアンナに一目ぼれするのだと思う。

おそらくマルチェロには同性愛の気質がある。その証拠に、マルチェロをファシズムの世界に招いた盲目の友人で、おそらく同性愛者ではないかと推測されるイタロは、二人が同種だという意味深な言葉を残している。

数年後、ファシズム政権の崩壊したローマで、ジュリアと幼子と暮らすマルチェロに、これまでの生き方を完全に崩壊させてしまう、ある出来事が起こって映画は終わる。

ラストシーン、振り向いてアップになったマルチェロの顔を赤く炎が照らす。
過去からついに解放された安堵なのか、新たな苦悩の萌芽なのか、どちらにもとれる凍り付いた表情は、この傑作の幕切れにふさわしい。

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