世界最大のソーシャル・ネットワーク・サービス「facebook」の創設にまつわる人間模様を描き、数々の賞を受賞した2010年公開の映画『ソーシャル・ネットワーク』。
デヴィッド・フィンチャーがメガホンをとり、ジェシー・アイゼンバーグが創業者のマーク・ザッカーバーグを演じた実話に基づく伝記映画です。
本記事では、実在する主要登場人物たちのその後と現在を中心に紹介したあと、個人的な感想・考察を交えてレビューしたいと思います。
映画『ソーシャル・ネットワーク』はどこまで実話?
ベン・メズリック著『facebook 世界最大のSNSでビル・ゲイツに迫る男』を原作に、ハーバード大学2年生だったマーク・ザッカーバーグが、親友のエドゥアルド・サベリンと組み「facebook」を立ち上げる過程と、そこによって巻き起こる確執、訴訟を描いた実話に基づいたストーリーです。
映画製作にあたっては、マーク・ザッカーバーグ自身は全く関わっていないばかりか、むしろ批判的でした。当初は、完成しても観ないと公言していましたが、実際は、従業員たちと一緒に鑑賞会を開き、映画としてはそれなりに楽しんだと言われています。感想を聞かれ、「多くの間違いはあるが、着ている服はシャツからフリースに至るまで完全に事実通りだった」とコメントしました。
また、オプラ・ウィンフリーとのインタビューで、「物語はほとんど創作であり、現実は6年間のほとんどをfacebookのプログラミングに必死に取り組んでいただけの平凡な日常だった」と語っています。
登場人物の一人でもある創業メンバーの一人、ダスティン・モスコビッツも、「実際になかったことで自分の過去が書き換えられているのを見るのはそれなりに愉快だった。ウィンクルボス兄弟など会ったこともないのに」と語りました。
つまり、物語の大筋については事実に基づいているものの、細かなエピソードについてはドラマ性を強調するための創作がなされているようです。
■事実ではないエピソード
上記のとおり、細かなエピソードについては、多くの創作があります。一例を挙げると、マーク・ザッカーバーグとエドゥアルド・サベリンの確執をうむきっかけの一つとして、空港に迎えに行くの忘れたというエピソードが描かれますが、それは事実ではありません。マークはきちんと迎えにいったようです。2人の関係性を強調するため創作されたのです。
ただ、知っておくべき最も重要な創作は、恋人エリカの件です。エリカという人物は実在人物ではありません。つまり、エリカに振られたことが間接的なきっかけになっていたというのは事実ではありません。
その点は、マーク・ザッカーバーグ自身、「女の子の気を引くためにサイトを立ち上げたというのは完全に間違いで、実際は単純に物を作ることが好きだったからだ」と事あるごとに発言しています。
実際、ザッカーバーグはその頃からすでに、すでに同じハーバード大学に通うプリシラ・チャンと交際しており、2人は2012年に結婚しています。
主要登場人物/キャスト8人・実在人物、その後と現在
①マーク・ザッカーバーグ/演:ジェシー・アイゼンバーグ
映画では、ウィンクルボス兄弟との裁判沙汰が一つの柱になっており、はっきりと決着のつかない形で終わりましたが、実際には2011年4月11日、連邦控訴審によってウィンクルボス兄弟側の主張を退ける形で結審しています。
既述の通り、2012年5月19日、大学の同窓生だったプリシラ・チャン(両親は中華系ベトナム人)と9年間の交際の末結婚。Facebookの株式が上場した翌日でした。2人は、2015年、2017年、2023年に3人の娘をもうけています。
ザッカーバーグは、2021年に社名を「Meta」に変更したものの、様々な買収劇をはねのけ、また数々の問題を抱えながら、現在も会長兼CEOとしてトップに君臨しています。
②エドゥアルド・サベリン/演:アンドリュー・ガーフィールド
エドゥアルド・サベリンは、1982年3月19日 、ブラジル・サンパウロの裕福なユダヤ系ブラジル人一家の生まれです。ハーバード大学に在学中からすでに大掛かりな投資をしていました。
映画で描かれたとおり、ザッカーバーグとの確執から株式希薄化、告訴に至りましたが、その後、創業者としての肩書と株式を取り戻しています。
2009年以来、シンガポールに暮らし、ベンチャーキャピタル会社の共同創業者兼CEOとして活躍しています。2024年のブルームバーグの報道によると、世界で最も裕福なブラジル人です。アメリカ国籍は2011年に放棄しています。
私生活では中華系インドネシア人の女性Elaine Andriejanssenと2015年に結婚。2人は、サベリンがハーバード大学の学生、Andriejanssenがタフツ大学の学生だった頃に出会い交際していました。
③ショーン・パーカー/演:ジャスティン・ティンバーレイク
ショーン・パーカーは、1979年12月3日、ヴァージニア州ハーンドン生まれ。高校卒業後の1999年、音楽共有サービス「ナップスター」を創業し、一躍時の人となりましたが、著作権侵害などの訴訟により操業停止。ザッカーバーグと知り合い、facebook初代CEOに就任するも、コカイン所持容疑で会社を追われたのは映画に描かれた通りです。
2010年には、いち早くSpotifyに出資するなど、投資家としては優れた目を持っていました。現在も起業家・投資家として、The Parker Foundationの設立し、敏腕を奮っています。
私生活では、2013年にシンガーソングライターのアレクサンドラ・レナスと結婚し、一男一女をもうけています。
④ダスティン・モスコビッツ/演:ジョゼフ・マゼロ
ザッカーバーグ、サベリンら創業メンバーの一人ダスティン・モスコビッツは、フロリダ生まれのユダヤ系アメリカ人です。
2008年にはfacebook社を去り、ソフトウェア会社の「Asana」を共同創業し成功させました。2011年には、フォーブス誌によって、世界で最も若い、たたき上げの億万長者だとされています。
2013年に非営利実業家のカリ・ツナと結婚しました。
⑤キャメロン&タイラー・ウィンクルボス/演:アーミー・ハマー
適切な双子俳優がいなかったため、アーミー・ハマーが一人二役で演じたキャメロン&タイラー・ウィンクルボスの兄弟は、ニューヨーク・サウスハンプトンの裕福な一家の生まれです。映画で描かれたとおり、ハーバード大学在学中に「ConnectU」を立ち上げようとしてザッカーバーグと訴訟沙汰になりました。
兄弟そろって、2008年の北京オリンピックにボート競技に出場したのも事実です。
兄弟はその後も、2012年に「ウィンクルボス・キャピタル・マネジメント」設立、2014年にはデジタル通貨取引所兼保管会社「ジェミニ」を設立するなど、投資家として目覚ましい成功を挙げています。
⑥ディヴィヤ・ナレンドラ/演:マックス・ミンゲラ
ウィンクルボス兄弟と「ConnectU」を創設するメンバーの一人だったディヴィヤ・ナレンドラは、ニューヨーク・ブロックスのインド系一家に生まれました。
2008年には、投資家のためのオンライン・コミュニティサイト「SumZero」を共同で創設し、成功させています。
⑦エリカ・オルブライト/演:ルーニー・マーラ
エリカは実在の人物ではありません。上記のプリシラ・チャンとの共通点はありません。
⑧クリスティ・リン/演:ブレンダ・ソング
実在の人物ではありません。上記のElaine Andriejanssenはアジア系の女性であり、在学中からの交際という点は同じですが、モデルとは言えないでしょう。
映画『ソーシャル・ネットワーク』感想・考察レビュー
デヴィッド・フィンチャー監督の『ソーシャル・ネットワーク』は、オスカー作品賞を競って譲った『英国王のスピーチ』より、はるかに優れていると個人的には思った。
スピーディーな会話を連打するような脚本、意表を突く編集、素晴らしい音楽で、ラストまで一気に走りぬける。今の映画の一つの新しい形を観た気がする。
ハーバード大学の学生であったマーク・ザッカーバーグが、facebookの立ち上げを思いつき、世界最大のSNSに成長させるまでの道のり。描かれるのは、創設の裏話、そして愛や裏切りの交差する人間ドラマだ。
当事者やfacebook社からの協力はほとんど得られず製作されたそうだが、事実だろうと脚色だろうと、一人の男のドラマとして、じゅうぶん面白いと自分は思った。
天才的頭脳と人間的欠点、マーク・ザッカーバーグという生身の人物像が見事に生きているからである。
映画は、マークと恋人のエリカが、バーでビールを飲みながら、延々と早口で会話するシーンで始まる。「中国の天才の数はアメリカより多い」といった他愛もない話題から始まり、やがてはマークが手ひどくエリカを侮辱してしまうのだが、怒ったエリカはこういって席を立つ。
「あなたは自分がオタクだからもてないと思っているだろうけど、違う。それはあなたが最低の男だから」
一人、テーブルに残されたマークの表情は、彼が映画の中で最もわかりやすく感情を露呈する場面だ。冒頭の長い会話のシーンは、本作が、マークの人間としての苦悩を描くものであることをはっきり示唆しているのである。
また、マークとエドゥアルド、親友だった二人の若者が、それぞれ別の道を歩んでいく青春ストーリーという見方も可能だ。二人で始めた小さなネットワークが、多くの人間を巻きこみ、巨大に膨れ上がるにつれて、二人の考え方の乖離は否応なしに拡がっていくのである。
マークを演じたジェシー・アイゼンバーグは、二人の関係をこう説明する。
「誰でも家でパーティーをするときには、親に出て行ってもらいたいものだ」
フィンチャー監督も述べているとおり、本作の主役はあくまでも10代の終わりから20代前半の、まだ子供の部分を残した若者たちである。彼らが、子供の純粋さを失っていく過程を描いた物語だと、言い換えてもいいかもしれない。
全世界に5億人のネットワークを築くことは可能でも、たった一人の親友も、大切な恋人すら、つなぎとめておけないという、どうしようもない理不尽さ。
それは本人の意志とは別のところで、例えば「成功」という、大いなる力に飲み込まれるように失われていく。
規模こそ違え、誰でも一度や二度味わったことのある、人間一人の無力感が、せつなく迫る。
ラスト、訴訟の協議を終えて一人部屋に残ったマークに、声をかける女性弁護士は、少ない出番ながら、テーマの重要な語り部である。
「あなたは悪い人じゃない。ただ悪いふりをしているだけ」
彼女は、新人弁護士で、歳も若く、今回も上司の横に座っているだけの立場であるが、周囲の熟練弁護士たちには見えない、マークの本質をしたたかに見抜いているのだ。
暗い室内でマークが自らのPCのfacebookを開くエンディングは見事だ。
開いた画面は、facebookのエリカのページ。
絶交され、facebookすらも子供の遊びだとからかっていた彼女が、自ら進んで登録してくれていたことが、マークの表情にささやかな喜びをもたらして映画は終わる。
ビートルズの“Baby, You Are A Rich Man”が流れるエンドクレジットを見ながら、なんともやるせない想いに襲われた。