精神病院を舞台に、人間の尊厳と組織の不条理を見事に描ききった1975年公開の傑作映画が『カッコーの巣の上で』です。
主人公の一人、ラチェッド婦長の過去を描くドラマ『ラチェッド』がNetflixから配信されたことで、オリジナルの本作にも再び熱い注目が集まっています。
ずっと昔観たきり忘れてしまった方も、まだ一度も観たことがない方も、ドラマ『ラチェッド』とあわせて、もう一度映画『カッコーの巣の上で』をじっくり鑑賞してみてはいかがでしょうか?
アメリカ映画史に燦然と輝く不朽の名作『カッコーの巣の上で』
『カッコーの巣の上で』は、第48回アカデミー賞において、作品賞・監督賞・主演男優賞・主演女優賞・脚色賞と主要5部門を独占しました。他にも、ゴールデングローブ賞や英国アカデミー賞など主要な映画祭を席捲しています。
アメリカン・ニューシネマの代表作の一つとして位置づけられ、2006年には「アメリカ映画協会(AFI)」が感動の映画ベスト100の17位、2007年にはアメリカ映画歴代ベスト100の33位に選出しています。
以下、あらすじ、登場人物、キャストにくわえ、原作やその他の見どころについて詳しくご紹介します。原作者や監督のプロフィールも、本作の背景を深く理解する上で重要なポイントです。
原作はケン・キージーの同名小説
1962年、当時まだ20代だったケン・キージーが、デビュー作として発表し、ベストセラーとなった同名小説が原作です。
ケン・キージーは1935年、コロラドに生まれましたが、幼い頃に本作の舞台となっているオレゴン州に移りました。
執筆活動のほか、アメリカでは有名なヒッピーのサイケデリック集団「メリー・プランクスターズ」のリーダーとして活動。レインボーカラーに塗装したバスで全米を自由に巡回していた姿はビートルズの映画『マジカル・ミステリー・ツアー』のモデルになったとも言われています。
作家としては本作のほか際立った作品は少なく、2001年にオレゴンの病院で肝臓がんのため、66歳で死去しました。
監督をつとめたミロス・フォアマン
ミロス・フォアマンは、1932年生まれ、チェコスロバキア出身の映画監督です。実の父がユダヤ人、養父も反ナチの大学教授だったため、両親ともに強制収容所で死亡という壮絶な生い立ちで知られています。
東欧映画界を代表とする監督として高い評価を得たのち、アメリカに移住。寡作ながら、本作および1984年の『アマデウス』で、2度のアカデミー監督賞を受賞しています。
2018年、コネチカット州の病院において86歳で死去しました。
あらすじ(ネタバレ)
舞台は1963年、オレゴン州立精神病院。9月のある日、ランドル・パトリック・マクマーフィという一人の男が連れられてきます。
彼は刑務所の過酷な強制労働から逃れるため、仮病を装って入院してきた男でしたが、病院は刑務所以上に厳格な管理下に置かれていました。絶対的暴君のラチェッド婦長が君臨し、患者たちの人格は完全に無視。
それでも、マクマーフィは果敢に反抗を試み、患者たちも少しずつ自分を取り戻していきます。電気ショック療法で対抗してくる病院側に腹を立て、マクマーフィは、ネイティブ・インディアンの患者であるチーフを誘い、脱走を考え始めます。
以下、ネタバレ。
ある日、患者の一人ビリーが、婦長の残酷な仕打ちによって追い込まれ、自殺。それに激怒したマクマーフィはラチェッドを絞殺しようとして未遂に終わります。
やがて、ロボトミー手術により廃人となって隔離病棟から戻ってきたマクマーフィ。
哀れな姿をみかねたチーフは、自らの手でマクマーフィを死に至らしめたあと、たった一人、病院から逃げ出すことに成功するのでした。
『カッコーの巣の上で』主要登場人物とキャスト
①ランドル・パトリック・マクマーフィ/ジャック・ニコルソン
本作の主人公マクマーフィを演じたのは、名優ジャック・ニコルソンです。
1969年の映画『イージーライダー』で注目され、本作でついにアカデミー主演男優賞を受賞したことで、名実ともにアメリカン・ニューシネマの顔となりました。
その後もアカデミー賞だけでも十数回にのぼるノミネートで3度の受賞など、押しも押されもせぬ大スターであり続けています。
2012年には、英雑誌が選ぶ「映画史に残る名演技ベスト200」において、なんと第1位に『カッコーの巣の上で』でのジャック・ニコルソンが選ばれました。
②ミルドレッド・ラチェッド/ルイーズ・フレッチャー
ジャック・ニコルソン演じるマクマーフィと対立する鬼の婦長ラチェッドをすさまじい迫力で演じ、見事アカデミー主演女優賞に輝いたのがルイーズ・フレッチャーです。
両親ともに聾唖の家庭に育ったルイーズ・フレッチャーは、1950年代にテレビドラマを中心に女優の活動をしつつも、結婚を機にしばらく仕事から遠ざかっていたところを、ミロス・フォアマンに抜擢されました。
ラチェッド役が強烈過ぎたのか、その後は本作を超えるほどの作品にあまり恵まれていませんでしたが、それでも『ER緊急救命室』や『BONES』などヒットテレビドラマにときおり出演。さすがの存在感をみせていましたが、2022年9月23日、88歳で死去しました。
③“チーフ”・ブロムデン/ウィル・サンプソン
物語の重要なキーパーソンとなる寡黙なネイティブ・アメリカンのチーフを演じたのは、画家としても活躍していたウィル・サンプソンです。
俳優としては本作のほか、『オルカ』『ポルターガイスト2』、テレビドラマ『ベガスVega$ 』などに出演しています。1987年に53歳で他界しました。
④ビリー・ビビット/ブラッド・ドゥーリフ
患者の一人で、ラチェッドの冷酷な仕打ちによって悲劇を迎えるビリーを、ブラッド・ドゥーリフが演じました。
ビリー役で見事アカデミー助演男優賞にノミネートされて一躍注目を集め、その後は名バイプレーヤーとしてさまざまな映画に出演しています。
異色どころでは、人気の『チャイルド・プレイ』シリーズにおいて、チャッキーの声を担当しているのがブラッド・ドゥーリフです。
⑤その他
本作には、他にも『バック・トゥ・ザ・フューチャー』のクリストファー・ロイドやダニー・デヴィートら名優が患者役で映画デビューしており、隠れた見どころとなっています。
タイトル『カッコーの巣の上で』の意味は?
「カッコーの巣」は、「精神病院」を意味する俗語の一つです。
また、原題「One Flew Over the Cuckoo’s Nest」は、イギリスの童謡「マザー・グース」の詩に由来しています。
「One Flew Over the Cuckoo’s Nest」を直訳すると、「カッコーの巣から飛び立つ者」。つまり、精神病院から逃げ出すチーフの姿を象徴しているとも言えます。
映画で描かれる「ロボトミー」とは?
映画の中で、マクマーフィは、ロボトミー手術の犠牲となります。
ロボトミーとは、1930年代から70年代初頭にかけて行われていた、精神疾患の治療の一つです。大脳の一部を外科手術によって切り取るという極めて残酷なものでした。
日本でも行われていましたが、1975年に日本精神神経学会により正式に廃止されています。
Netflixドラマ『ラチェッド』はラチェッド婦長の前日譚
そんな傑作映画『カッコーの巣の上で』に登場するラチェッド婦長の過去を描くNetflixオリジナルドラマが、そのものずばり『ラチェッド』です。
『グリー』や『アメリカン・ホラー・ストーリー』『POSE』をうんだヒットメーカーのライアン・マーフィーが手掛けるとあって、決して一筋縄ではいきません。
ラチェッドを演じるサラ・ポールソンなどキャスト情報、ストーリーなどについては、下記の記事で紹介しています。
映画『カッコーの巣の上で』ブルーレイがおすすめ!配信は?
映画『カッコーの巣の上で』は、ブレーレイが発売されています。86分にわたるメイキング映像、未公開シーン集など盛りだくさんの特典映像が収録されており、ファン必見です。
また配信では、2024年2月現在、U-NEXTにおいて視聴可能です。
U-NEXTでは、70年代や80年代の名作映画のラインアップが充実。また31日間の無料トライアルもありますから、この機会にぜひお試しになって、こうした名作映画の数々を思う存分観まくるのはいかがでしょうか?
*本ページの情報は2024年2月時点のものです。最新の配信状況はU-NEXTサイトにてご確認ください。
コメント