日活ロマンポルノは、AV(アダルトビデオ)やピンク映画・成人映画とは全く異なるものです。ポルノというネーミングゆえ、混同されている方が意外と多いのではないでしょうか。
キネマ旬報の日本映画年間ベスト10にランキングするなど、映画として、極めて高い完成度を誇る作品も決して少なくないのです。
そこで、本記事ではまず日活ロマンポルノの歴史を簡単に振り返ったあと、映画通なら観ておきたい名作を10作品厳選し、ご紹介したいと思います!
- 日活ロマンポルノとは? <10分に1回の塗れ場?!>
- 1. 本人が出演した虚実ないまぜの半生記『一条さゆり 濡れた欲情』(1972)
- 2. 中上健次の小説をスタイリッシュに映像化した『赫い髪の女』(1979)
- 3. 相米慎二監督・石井隆脚本の『ラブホテル』(1985)
- 4. 強烈なモノクロ映像とリアルな描写はもはや文芸作品『(秘)色情めす市場』(1974)
- 5. 室田日出男主演でおくる究極の愛のかたち『人妻集団暴行致死事件』(1978)
- 6. 文豪・永井荷風の小説を原作にした『四畳半襖の裏張り』(1973)
- 7. 無垢なみずみずしさすら漂う青春映画『恋人たちは濡れた』(1973)
- 8. 石井隆のコミックを原作にした人気シリーズ『天使のはらわた 赤い教室』(1979)
- 9. 記念すべき日活ロマンポルノの第一作『団地妻 昼下がりの情事』(1971)
- 10. 団鬼六と谷ナオミの名コンビによる『花と蛇』(1974)
- 2016年には「日活ロマンポルノリブート」として5作の新作も!
- 日活ロマンポルノ鑑賞におすすめのU-NEXT
日活ロマンポルノとは? <10分に1回の塗れ場?!>
1950年代から60年代半ばにかけて数々のヒット作を量産し、日本映画界に一時代を築いた日活。ところがその後に到来した映画産業の低迷と日活自身の経営問題から、新たに乗り出したのが低予算にして利益率の高いロマンポルノ路線でした。
1971年に公開された第1作目『団地妻 昼下りの情事』は予想外の反響を呼び、以後、1988年までの間に1000本を超える作品を発表して一大ブームを巻き起こしました。
のちに、日本映画界を背負うことになる新進気鋭の若手監督をどんどん起用し、それぞれが自身のオリジナリティをいかんなく発揮できる言わば実験の場所を提供する形になったばかりか、一般映画やテレビで華々しく活躍することになる女優や俳優たちも多数輩出しました。
先入観を捨てよう!日活ロマンポルノとAVの違い
先に述べたとおり、日活ロマンポルノは、アダルトビデオとは全くの別物です。独自スタジオや経験豊富なスタッフ陣など、日活が持っていた豊潤な映画資産を自由に使えたこと、そして何より比較的低予算と言っても、アダルトビデオやピンク映画の比ではない潤沢な資金を投入できた点で一線を画します。
「10分に1回の濡れ場」「上映時間70分以内」などいくつかの枠組みの中で、新進気鋭の映画監督やフレッシュな役者を大胆に起用します。
その結果生み出された作品の質は極めて高く、中には年間ベストテンの上位にランキングした作品や、権威ある映画賞を受賞するに至った作品や女優たちも少なくありません。
またファンの多くが男性ではなく女性だったことも大きな特徴であり、現在は成人映画ではなくR-15指定で鑑賞が可能なため、U-NEXT、Amazonプライムビデオ、YouTubeムービー、Tsutaya TVなどストリーミングサービスで幅広く通常配信がなされています。
気高く美しく撮影された女性のヌード、芸術性の強い映像、大胆なストーリー展開、際立つ作家性など、驚嘆すべき完成度を持った日活ロマンポルノ!
おすすめしたい名作10 作品は、こちらです!
1. 本人が出演した虚実ないまぜの半生記『一条さゆり 濡れた欲情』(1972)
公然わいせつ罪に問われながらも、ストリップ界の女王としてカリスマ的人気を誇った一条さゆりの生きざまを、虚実おりまぜながら描いた日活ロマンポルノを代表する名作です。
一条さゆりが本人役で出演し、のちに映画『青春の蹉跌』や『恋文』、テレビドラマ『傷だらけの天使』や2時間サスペンスでその才能をいかんなく発揮する神代辰巳監督がメガホンをとりました。
70年代初頭の大阪の風景も見どころとなっているほか、ライバルのストリッパーを演じた伊佐山ひろ子の奔放な存在感にも注目です。キネマ旬報年間ベストテンの堂々第8位に選ばれました。
2. 中上健次の小説をスタイリッシュに映像化した『赫い髪の女』(1979)
原作は、中上健次の小説「赫髪」。ダンプカーを運転する肉体労働者の男と、謎めいた赫い髪をした女の濃密な同棲生活を描きます。ヒロインを宮下順子、男を石橋蓮司が演じました。
憂歌団の「どてらい女」が流れる中、国道を一人早足で歩く宮下順子とトラックがすれ違う冒頭のおそろしくかっこいいタイトルバックだけでも必見!
神代辰巳監督が、その後数々の日本映画の脚本を手掛けることになる荒井晴彦とタッグを組んだ作品です。二人は宮下順子とともに、翌年の日本アカデミー賞で、主演女優賞、監督賞、脚本賞にノミネートされました。
3. 相米慎二監督・石井隆脚本の『ラブホテル』(1985)
『セーラー服と機関銃』を大ヒットさせた相米慎二監督が招かれ、脚本には、のちに『死んでもいい』や『GONIN』を手掛ける石井隆を起用した、日活ロマンポルノ後期を代表する傑作の一つです。
それぞれワケありの中年タクシードライバーとデリヘル嬢の奇妙な関係を、相米慎二監督らしいカメラワークと視点で描きます。当時のヒット歌謡曲を効果的に取り入れた独特のセンスも見どころです。
ヒロインの名美を速水典子、タクシードライバーの村木を寺田農が演じています。ヨコハマ映画祭では、最優秀作品賞、最優秀監督賞、速水典子が最優秀新人賞に輝きました。
4. 強烈なモノクロ映像とリアルな描写はもはや文芸作品『(秘)色情めす市場』(1974)
大阪の釜ヶ崎を舞台に、金に汚い娼婦の母、そして知的障害を患う弟の面倒を見ながら、自身もやはり娼婦として生計を立てている19歳のトメの生きざまをなまなましいタッチで描いた作品です。
ヒロインを芹明香が体当たりで演じ、母親には花柳幻舟が扮しています。神代辰巳とともに日活ロマンポルノを支えた名匠の一人、田中登が監督を務めました。
乾いた濃淡の強いモノクロ映像でとらえられた女たちの悲哀と釜ヶ崎の姿は、もはや堂々たる文芸作品の域に達したと思えるほどの完成度です。深作欣二監督は、本作にインスピレーションを得て名作『仁義の墓場』を製作するに至ったと言われ、芹明香が実際にキャスティングされています。
5. 室田日出男主演でおくる究極の愛のかたち『人妻集団暴行致死事件』(1978)
無軌道な若者3人組の性の犠牲となった美しい妻の枝美子。無残にも変わり果てた妻をなおも愛おしむ夫・泰造の姿を通じて、究極の愛を描き出した田中登監督作です。
主人公の中年男を演じた室田日出男の野性味あふれる男の魅力が充満し、他の日活ロマンポルノの作品とは一味違う趣があります。
原案を手掛けたのは直木賞作家の長部日出雄。キネマ旬報の年間ベストテン第9位にランキングしました。
6. 文豪・永井荷風の小説を原作にした『四畳半襖の裏張り』(1973)
永井荷風の小説「四畳半襖の下張」を原作に、花街に生きる女と男の官能を叙情豊かに描いた時代作品です。
東京の花街にある一軒の料亭で、濃密な情事に耽る旦那と芸者の姿を軸に、売れ残った年増の芸者、まだ水揚げも済んでいない見習い芸者らの姿を交えながら、激動の大正時代そのものを描き上げます。
神代辰巳が監督・脚本を手掛け、宮下順子、絵沢萠子、芹明香らが個性的な芸者陣に扮しました。大島渚は、本作を観て『愛のコリーダ』の着想を得たと言われています。
7. 無垢なみずみずしさすら漂う青春映画『恋人たちは濡れた』(1973)
田舎の漁師町に5年ぶりに帰郷したものの、なぜか頑なに正体を隠す青年を中心に、バイト先の映画館の女主人、一組のカップルら地元の人々が織りなすナイーブな人間模様を、みずみずしいタッチで描いた青春ドラマです。
主人公の青年を大江徹、そしてヒロインを演じた中川梨絵のフレッシュな魅力にも注目です。
背丈ほどある草むらでの交わり、裸で浜辺に遊ぶ姿など、せつない名シーンも多く、神代辰巳監督らしさが存分に発揮された作品の一つです。
8. 石井隆のコミックを原作にした人気シリーズ『天使のはらわた 赤い教室』(1979)
コミック誌に連載された石井隆の「天使のはらわた」を原作に、日活ロマンポルノで製作された合計5作品の第2作目にあたり、シリーズ最高傑作と称されるのが『天使のはらわた 赤い教室』です。各作品に物語上のつながりはありません。
学生時代に乱暴された現場を撮影され、ブルーフィルムとして流されてしまった女・名美と、ポルノ雑誌の編集者・村木のやるせない関わりを、情感豊かに描きます。
名美を水原ゆう紀、また村木を蟹江敬三がさすがの渋い存在感で演じました。石井隆自身が脚本に携わっています。
9. 記念すべき日活ロマンポルノの第一作『団地妻 昼下がりの情事』(1971)
満たされない日常を送る、団地住まいの平凡な主婦・律子。秘めた欲求不満から浮気に走り、やがて欲望のままコールガールへと堕ちていく姿を描きます。
『大江戸捜査網』などテレビドラマのヒットシリーズを手掛けていた西村昭五郎を監督に起用し、白川和子を主演に迎えた日活ロマンポルノの記念すべき第一作です。予想外の大ヒットを記録し、日活新時代の華々しい幕開けとなりました。
その後のテレビにおける波乱メロドラマ路線の原型になったとも言われる本作。2010年には「ロマンポルノ・リターンズ」としてリメイクが公開されるなど、もはや伝説と化した作品です。
10. 団鬼六と谷ナオミの名コンビによる『花と蛇』(1974)
母にまつわる幼い頃の体験から不能となっていた青年・誠は、ある日、勤め先の社長から妻・静子の調教を依頼されます。アブノーマルな性行為に浸るうち、次第に不能が回復し……。
原作は団鬼六のSM官能小説です。アブノーマルなフェティシズムを前面に押し出した点でも画期的。SMの餌食となるヒロインの静子を谷ナオミが妖艶に演じ、センセーションを巻き起こしました。
これまで幾度となく映画化されており、杉本彩らもヒロインを演じています。
2016年には「日活ロマンポルノリブート」として5作の新作も!
2016年には、日活ロマンポルノ誕生45周年を記念し、「リブートプロジェクト」と題して5人の人気監督による新作5作品が公開されました。
あわせて鑑賞してみてはいかがでしょうか?
日活ロマンポルノ鑑賞におすすめのU-NEXT
以上、映画ファン必見の名作10作品を厳選し、ご紹介しました。
日活ロマンポルノは、黒澤明や小津安二郎らが世界で活躍した日本映画黄金期の伝統を引き継いだ、最後のきらめきだったという人もいます。
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*本ページの情報は2020年7月時点のものです。最新の配信状況はU-NEXTサイトにてご確認ください。
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