「ミレニアム」シリーズ解説:あらすじ/キャスト/原作/比較【ドラゴンタトゥーの女】

ミレニアムシリーズ 映画

スウェーデンで生まれ、本国のみならず世界各国でベストセラーとなった、クライム・ミステリー小説「ミレニアム」シリーズ。これまで本国で3作品が、ハリウッドで2作品が映画化されました。

映画・ドラマ・小説の世界で熱狂的なファンを持つ「北欧ミステリー」あるいは「北欧ノワール」とも呼ばれる代表的作品です。

本記事では、シリーズの概要、簡単なあらすじ、映画化作品の比較、見どころなどをなるべくわかりやすくご紹介したいと思います。

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スウェーデンのジャーナリスト兼作家スティーグ・ラーソンが発表した唯一の小説が「ミレニアム」シリーズです。3部作から成り、3作ともラーソンの死後に出版されました。

物語は、「ミレニアム」誌を発行するジャーナリストのミカエル・ブルムクヴィストと、暗い過去を持つ天才女性ハッカーのリスベット・サランデルが、さまざまな難事件に巻き込まれ、真相を解明していく姿と、2人の一風変わった絆を描きます。

もともとラーソンは全5~10部作で完結させる予定だったと言われていますが、3作で絶筆となったため、その後、同じくスウェーデン人のノンフィクション作家ダヴィド・ラーゲルクランツが続編となる3作、さらに同じくスウェーデン人作家カーリン・スミルノフが続編シリーズ3作品を継続して執筆しています。

シリーズ各作品の出版年とタイトル、および映画化された作品は以下の通りです。

出版年著者タイトル 本国の映画化 ハリウッド映画化
2005年スティーグ・ラーソンミレニアム1 ドラゴン・タトゥーの女2009年2月2011年
2006年ミレニアム2 火と戯れる女2009年9月
2007年ミレニアム3 眠れる女と狂卓の騎士2009年11月
2015年ダヴィド・ラーゲルクランツミレニアム4 蜘蛛の巣を払う女2018年
2017年ミレニアム5 復讐の炎を吐く女
2019年ミレニアム6 死すべき女
2022年カーリン・スミルノフミレニアム7 鉤爪に捕らわれた女
未刊ミレニアム8:未定
未刊ミレニアム9:未定
※出版年・映画公開年は本国、タイトルは邦題



登場人物本国3部作ハリウッド版(ドラゴン)ハリウッド版(蜘蛛)
ミカエルミカエル・ニクヴィストダニエル・クレイグスヴェリル・グドナソン
リスベットノオミ・ラパスルーニー・マーラクレア・フォイ
エリカレナ・エンドレロビン・ライトヴィッキー・クリープス

本国版は3部作を通して、スウェーデン人俳優の同一キャストが演じましたが、ハリウッド版では2作品ともキャストを総入替えしました。

とりわけハリウッド版『ドラゴン・タトゥーの女』は、大スターを揃えた豪華なキャスティングが特徴であり、上記主要3人の他にも、クリストファー・プラマー、ジュリアン・サンズ、ステラン・スカルスガルドら国際的な大スターを取り揃えました。

ヒロインを演じたノオミ・ラパス、ルーニー・マーラ、クレア・フォイの演技は、作品自体の評価や個人的な好みとは別に、3人とも高い評価を得ています。

本国で映画化された3部作は、すべて直接繋がっており、3部作を通して全貌が明らかになる構成です。

「ミレニアム」シリーズでは4作目にあたる『蜘蛛の巣を払う女』も、時系列的には続編となっていますが、ストーリーの展開上のつながりはなく、独立した物語となっています。

■『ドラゴン・タトゥーの女』(2009年・2011年公開)

財界の汚職告発記事で罠にはめられ、裁判に敗訴した失意のミカエルが、大富豪財閥の老人ヘンリックからある調査を依頼され、引き受けます。それは、40年前に失踪した親族の娘ハリエットの真実を突きとめることでした。

調査の手助けをすることになったのが、天才ハッカーにして凄腕の調査能力を持つ女性リスベット。背中にドラゴンの刺青を持つ過激な外見ばかりか、保護観察中の暗い過去を持つ謎の女性でした。

やがて、過去の猟奇殺人事件とのつながり、そして財閥一家のおぞましい過去が明らかになります。

■『火と戯れる女』(2009年公開)

ハリエットの事件(前作)が解決してから1年がたち、ミカエルは仕事の第一線に復帰した一方、リスベットは、忽然と姿を消したままでした。

そんな中、「ミレニアム」誌が追及していた組織的な少女売春の件で、2人の若い記者が惨殺され…。現場に残されていた銃の指紋から、リスベットが第一容疑者となってしまいます。

それぞれが真相究明にあたる中、背後に見え隠れするザラと呼ばれる男の存在、そして狂暴な大男ニーダーマン。やがて、徐々にリスベットの隠された過去が明らかに…。少女の頃、父に火を放って殺害しようとしたのはなぜか、そして父の恐ろしい正体も…。

■『眠れる女と狂卓の騎士』(2009年公開)

ザラとの死闘の末(前作)、瀕死の状態で病院に運ばれたリスベット。身動きのできないリスベットのため、ミカエルは、弁護士の妹の力を借りつつ、ザラとその背後で暗躍する大物たちに迫ります。

リスベットは、退院するやいなや記者2人殺害の容疑者のまま逮捕され、法廷に立たされることに…。

公安警察に巣食う巨悪の正体が少しずつ判明する中、父を殺害しようとして精神病院に軟禁されたリスベットの過去にまつわる全貌も明らかになるのでした。

■『蜘蛛の巣を払う女』(2018年公開)

リスベットは、AIの世界的権威であるバルデル教授からのある依頼を引き受けることに…。それは、自身が開発した危険な核攻撃プログラムを、アメリカ国家安全保障局からハッキングによって取り戻すことでした。

リスベットにとってはさして難しくもないはずが、突然謎めいた男たちに襲撃され、取り戻したプログラムも奪われてしまいます。殺されたバルデル教授の一人息子を保護しつつ、ミカエルの協力を得て真相を探る中、ある一人の女性が裏で暗躍していることが明らかになります。

それは、リスベットの双子の妹カミラ。16年前、父親の虐待からリスベットだけが逃亡しおせ、生き別れとなっていました。



①スティーグ・ラーソンとはどんな人物か

スティーグ・ラーソンは、1954年8月15日、スウェーデンのストックホルム生まれ。グラフィックデザイナーからジャーナリズムに転身し、90年代にはリベラルな政治誌「EXPO」を創刊し、編集長を務めていました。つまり、物語の主人公ミカエルは、ラーソン自身の分身だと言えるでしょう。

2002年ごろから、事実婚の女性エヴァ・ガブリエルソンの力を借りて執筆を始めた処女小説が「ミレニアム」シリーズでした。ところが、出版の契約も終えていましたが、それを見ることなく、2004年11月9日、心筋梗塞により50歳で急死。その時点で3部作が完成し、4作目の第一稿を約7割ほど書き上げた状態だったと言われています。

未刊の4作目の内容やその後の展開を記したメモなどは、現時点では公表されていません。

②重複した『ドラゴン・タトゥーの女』本国版とハリウッド版の違い

第1作『ドラゴン・タトゥーの女』の本国版とハリウッドのリメイク版は、ともに原作に忠実に作られており、内容に大きな改変はありません。

非常に高い評価を得た本国版に劣らぬリメイクを製作する上で、ハリウッド版は、豪華なキャストを取り揃え、そして監督にヒットメーカーのデヴィッド・フィンチャーを起用するなど、新たな魅力を加えることに成功しました。

ただ両作品において、特筆すべき違いはエンディングにあります。

リスベットのミカエルに対するひそかな好意は、終盤、ミカエルとエリカの親密な姿を目撃することで裏切られます。ハリウッド版では、リスベットはミカエルのために高価なレザー・ジャケットを購入し、自らそれを手渡そうするシーンが挿入され、より失恋の意味が強調されたせつない結末になっているのです。

③本国3部作は、翌年に未公開映像を加えた完全版がテレビ放送

本国スウェーデンにおいて、2009年の2月、9月、11月に公開された3作の映画は、翌2010年、それぞれ未公開映像を加えた完全版としてテレビで放映されました。

それぞれ、90分の前編・後編に分けられ、すべて視聴すると9時間の大作となる形で放送され、大反響を巻き起こました。

この完全版は、日本でも現在、ストリーミング配信で視聴が可能ですが、おすすめはU-NEXT。

完全版の全作品にくわえ、ハリウッド版の2作品も、すべて見放題配信で鑑賞することができます。

U-NEXTでは、31日間の無料トライアルもありますから、この機会にぜひお試しになってシリーズの全作品を一気見するのはいかがでしょうか?

*本ページの情報は2024年11月時点のものです。最新の配信状況はU-NEXTサイトにてご確認ください。

④シリーズのさらなる映画化の予定は?

2024年現在、さらなる映画化の企画は進んでいません。

理由の一つとして考えられるのは、5作目となった『蜘蛛の巣を払う女』の評価があまり芳しくないことです。

バトルシーンが続く物語の展開が、過去の4作に比べてやや単調でつまらないこと。またクレア・フォイの演技は高い評価を得たものの、ミカエルの存在感の薄さ、そして演じた若手スウェーデン人俳優スヴェリル・グドナソンの役不足も指摘されています。

ただ、原作は執筆は現在も続いており、その内容の面白さによっては新たに企画が立ち上がる可能性はじゅうぶんにあるでしょう。

⑤故人となった主要キャスト(2024年現在)

残念ながら、本国版3部作で主人公のミカエルを演じたスウェーデンを代表する俳優ミカエル・ニクヴィストは、2017年6月27日、肺がんにより56歳の若さで死去しました。

ハリウッド版『ドラゴン・タトゥーの女』で、大富豪のヘンリックを演じた名優クリストファー・プラマーは、2021年2月5日、91歳で死去。若きヘンリックを演じた実力派俳優ジュリアン・サンズも、2023年1月、トレッキング中の山中で遺体となって発見されました。死因は不詳で、65歳でした。

デヴィッド・フィンチャー監督による『ドラゴン・タトゥーの女』を劇場で鑑賞した。

ある実業家の不正告発記事が裁判で敗訴し、窮地に立たされた記者のミカエルに、大富豪一族の老主から声がかかる。40年前に忽然と姿を消し、殺害されたと思われる親族ハリエットの真相を究明してほしいというのだ。

ミカエルの調査に手を貸すのが、タトゥーとボディピアスで自らを傷つけ、暗い過去を持つ天才ハッカー、リスベット。

次第に明らかになる一家のおぞましき裏の顔。何ら接点のない、ハリエットとリスベットという二人の女の闇が、物語の裏側で微妙にオーバーラップしてくるのが、もう一つの見どころだ。

物語の魅力は、なんといっても、リスベットというかつてない異形ヒロインを産んだことにつきる。

カリスマ性と暗い闇は、演じた素顔のルーニー・マーラ本人とのギャップゆえに匂いたったのだと思う。マーラが、同じくフィンチャーの『ソーシャル・ネットワーク』で主人公の恋人を演じた女優だと、事前情報なしにわかる人がどれぐらいいるだろう。

原作者のスティーグ・ラーソンは本の発売前に急死したという。

本作は三部作に渡る長い物語の第一章に過ぎず、リスベットの過去やミカエルとの関係などは謎のまま終わってしまう。観終わったあとの、微かな物足りなさは、この後に続くストーリーへの興味の裏返しかもしれない。

リスベットの過激な容姿と凶暴性、世間一般の道から逸脱した生き方の、根底にある哀しみと絶望の理由を知りたいと思う。

オープニング・タイトルの強烈なビジュアルイメージが忘れ難い。

オリジナルのスウェーデン映画も鑑賞したが、出来そのものは、甲乙つけがたいといったところである。



「ミレニアム」シリーズに代表されるダークでドロドロとした雰囲気を特徴とする「北欧ミステリー」あるいは「北欧ノワール」の世界が気に入った方には、下記の作品をおすすめします。

①映画「特捜部Q」シリーズ

スウェーデンの「ミレニアム」シリーズに並び称される作品として、デンマークが制作した世界的ヒットシリーズが「特捜部Q」シリーズです。

2024年11月現在、原作9作に対し、これまで6作品が映画化されましたが、「ミレニアム」シリーズの本国版3部作の脚本を手掛けたニコライ・アーセルが、同じくこちらの脚本を手がけています。

②Netflixドラマ『女刑事マーチェラ』

イギリスのITVで放送され、その後、Netflixでも3つのシーズンが配信されたドラマシリーズが『女刑事マーチェラ』です。

主人公は、わが子を亡くしたことをきっかけに、激しく精神を病みながら、抜群の捜査能力を持つ女刑事マーチェラであり、どこかリスベットを彷彿とさせます。

③映画『裏切りのサーカス』

ジョン・ル・カレの世界的ベストセラーのスパイ小説を原作に、2011年、英仏独合作で映画化されたのが『裏切りのサーカス』です。

映画自体、非常に完成度の高い傑作ですが、監督を務めたのがスウェーデン人監督のトーマス・アルフレッドソン。全体を通して、「北欧ノワール」の雰囲気に満ちています。

ちなみに実兄のダニエル・アルフレッドソンが、『火と戯れる女』と『眠れる女と狂卓の騎士』の監督です。

どれも非常に見ごたえがあり、ぜひ鑑賞をおすすめします。

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