2023年にイギリスで2度目の映画化がなされ、再び注目の集まっている『異人たちとの夏』。山田太一の同名小説を原作に、1988年、大林宣彦監督の手により映画化されました。
本記事では、映画の簡単な紹介ののち、浅草を中心に行われたロケ地・撮影場所について12か所特定し、その現在の姿など含めご紹介したいと思います。
- 山田太一の原作を映画化『異人たちとの夏』
- 『異人たちとの夏』ロケ地・撮影場所12か所を特定!その現在
- ①練馬区のマンション「シャトーリリアーラ」←英雄の暮らすマンション外観
- ②旧東京高速鉄道・旧新橋駅ホーム←英雄が仕事で取材する地下鉄の駅
- ③東京メトロ・銀座線浅草駅4番出口←浅草にやってきた英雄が利用した地下鉄出口
- ④「浅草寺」と「仲見世」←英雄が散策したお寺
- ⑤台東区浅草「小柳」←英雄が一人でうな重を食べた店
- ⑥台東区浅草「日之出煎餅」←英雄が立ち寄ったせんべい屋さん
- ⑦「浅草演芸ホール」←父と出会った演芸場
- ⑧「浅草ボウル」前の「六区ロードウェイ商店街」路上←父と初めて会話を交わした路上
- ⑨台東区浅草「六区通り」←父と会話しながら歩く商店街
- ⑩台東区浅草「花やしき通り」←父にビールを買ってもらった路上
- ⑪台東区西浅草「東本願寺」南側道路←父とキャッチボールした路上
- ⑫台東区浅草「今半別館」←両親とすき焼きを食べた店
- 『異人たちとの夏』鑑賞後は、ぜひ浅草のロケ地めぐりを!また原作もおすすめ!
山田太一の原作を映画化『異人たちとの夏』
山本周五郎賞を受賞した山田太一の同名小説を原作に、監督・大林宣彦、脚本・市川森一のコンビで映画化された、1988年公開の『異人たちとの夏』。
山田太一自身を彷彿とさせる、主人公の孤独な脚本家・原田英雄を風間杜夫、英雄の両親を片岡鶴太郎と秋吉久美子、英雄が出会う謎めいたマンションの住人・桂を名取裕子、英雄の仕事関係者を永島敏行が演じました。
映画会社側からのリクエストにより大林監督が盛り込んだホラー的要素は、賛否両論巻き起こしましたが、ブルーリボン賞やキネマ旬報賞の助演女優賞(秋吉)・助演男優賞(片岡)を受賞するなど、多くのファンもいる作品です。
2023年には、イギリス人監督のアンドリュー・ヘイの手により、二度目の映画化作品『異人たち』が公開され、欧米で高い評価を得ました。
あらたな要素が盛り込まれた映画『異人たち』の内容について、山田太一と原作、大林宣彦監督、2つの映画の違いなどについては、以下の別の記事の中で詳しく考察しています。
ちなみに、大林宣彦は2020年4月10日に82歳で他界、山田太一も2023年11月29日に89歳で他界しており、2人とも故人です。
■あらすじ振り返り<ネタバレあり>
妻子と離婚し、マンションで一人暮らす中年脚本家の原田英雄が、取材帰りにふらりと立ち寄った浅草。
なんとそこで、英雄が12歳のときに交通事故で死んだ両親、英吉・房子と出会います。なんの不自然さもなく、成長したわが子である英雄をあたたかく迎え入れる2人、そして英雄も2人の暮らすアパートに足しげく通うようになり……。
一方、英雄は、同じマンションに住む謎めいた一人の女性・桂とも出会い、激しく愛し合うようになります。
しかし、両親と桂、2つの関係を続けるうちに英雄は急激に衰弱していき……。ついに、両親ともう会わないことを決断。最後の食事で訪れたすき焼きやで、両親は別れを告げながら、ゆっくりと消えていくのでした。
その後、マンションに戻った英雄は、おぞましい幽霊となった桂に襲われます。寸でのところで仕事仲間の間宮に助けられますが、桂もすでに自殺していた死人だったのです。
『異人たちとの夏』ロケ地・撮影場所12か所を特定!その現在
ストーリーの展開にあわせて登場する順に紹介します。
※過去と現在の写真が並んでいるところは、Googleストリートビューにより確認できる2010年時点のものと2022年時点のものです。
残念ながら、閉店してしまった店もあります。
①練馬区のマンション「シャトーリリアーラ」←英雄の暮らすマンション外観
英雄の暮らす、あまりひと気のないマンションの外観は、練馬区の目白通り沿いに立つマンション「シャトーリリアーラ」がロケ地です。
ただし、外観のみで、ロビーや室内などはすべてスタジオ内に設けられたセットです。
マンションは2024年の今もそのまま現存しています。
名称 | シャトーリリアーラ |
住所 | 東京都練馬区向山2-9-2 |
公式HP | ー |
②旧東京高速鉄道・旧新橋駅ホーム←英雄が仕事で取材する地下鉄の駅
英雄が執筆のための取材で訪れる、ひと気のない暗い地下鉄の線路やホームは、実際に新橋駅に実在します。
昭和14年(1939年)に、浅草~新橋間を運営していた東京地下鉄道、新橋~渋谷間を運営していた東京高速鉄道が統合されて直通運転となり、そのため東京高速鉄道側のホームが廃止されます。
ホームは「幻の新橋駅」と呼ばれて現存し、現在は銀座線車両の留置場、職員の会議室などに利用されています。イベントで限定公開されることもあるようです。
③東京メトロ・銀座線浅草駅4番出口←浅草にやってきた英雄が利用した地下鉄出口
新橋駅で取材を終えた英雄は、そのまま地下鉄に乗り、浅草に移動します。銀座線浅草駅から地上に出た場所は、吾妻橋に近い4番出口です。
出てきた英雄の背景に特徴的な意匠が見えています。
名称 | 銀座線浅草駅4番出口 |
住所 | 東京都台東区浅草1-1-3 |
公式HP | https://www.tokyometro.jp/station/asakusa/index.html |
④「浅草寺」と「仲見世」←英雄が散策したお寺
英雄はそのまま仲見世を歩き、浅草寺でお参りし、しばらく境内を散策します。背後に五重塔もはっきり見えています。
説明するまでもなく、浅草寺は、645 年に創建された東京で最も古いお寺であり、今や外国人観光客もあふれかえる東京を代表する観光スポットです。
名称 | 浅草寺 |
住所 | 東京都台東区浅草2-3-1 |
公式HP | https://www.senso-ji.jp/ |
⑤台東区浅草「小柳」←英雄が一人でうな重を食べた店
浅草を散策した英雄が、一人でうな重を食べたのは、実在する老舗の鰻屋「小柳」です。
浅草中央通りにあり、創業が大正15年(1926年)の知る人ぞ知る名店。場所は撮影時と同じですが、2013年にリニューアルされ外観・内装とも新しくなっています。
名称 | 小柳 |
住所 | 東京都台東区浅草1-29-11 |
公式HP | ー |
⑥台東区浅草「日之出煎餅」←英雄が立ち寄ったせんべい屋さん
鰻を食べたあと、英雄が立ち寄ったせんべい屋は、実在した老舗「日之出煎餅」です。映画では、店頭でせんべいを焼いていました。
浅草新仲見世商店街と六区ブロードウェイが交差する角にあり、創業は大正2年(1913年)。せんべいの名店としてメディアにしばしば登場するなど人気店でしたが、残念ながら2022年1月11日に閉店しました。
2024年現在の跡地には、ガトーショコラの専門店「ケンズカフェ東京」の浅草店が営業しています。
名称 | 日之出煎餅【閉店】 |
住所 | 東京都台東区浅草1-26-4 |
公式HP | ー |
⑦「浅草演芸ホール」←父と出会った演芸場
英雄が、観客席の中に大昔に死んだはずの父を見つける演芸場は、「浅草演芸ホール」です。
昭和26年(1951年)、同地にできたストリップ劇場「フランス座」が、昭和39年(1964年)に改装されて「浅草演芸ホール」が開館。当初は4階・5階にありましたが、昭和46年(1971年)、1階に移転しました。
現在、1階・2階あわせて計340席あり、都内の寄席の中では最大の規模を誇る演芸場として人気です。
名称 | 浅草演芸ホール |
住所 | 東京都台東区浅草1-43-12 |
公式HP | https://www.asakusaengei.com/ |
⑧「浅草ボウル」前の「六区ロードウェイ商店街」路上←父と初めて会話を交わした路上
演芸場を出た英雄が父と初めて会話を交わした路上は、そのまま「浅草演芸ホール」前の「六区ロードウェイ商店街」です。背後にボウリング場「楽天地 浅草ボウル」のネオンサインがはっきり見えています。
「楽天地 浅草ボウル」は、昭和44年(1969年)にオープンし、浅草では唯一のボウリング場としてにぎわいましたが、残念ながら平成22年(2010年)1月に閉業。跡地には、2015年に商業施設「まるごとにっぽん」が建設され、さまざまな飲食施設、「ユニクロ浅草店」や「リッチモンドホテルプレミア浅草」などが入居しています。
角の交番は同じ位置に現存しています。
⑨台東区浅草「六区通り」←父と会話しながら歩く商店街
英雄と父は、ぶらぶらと会話しながらそのまま入る道は「六区通り」です。暗い夜道で店名などはよく見えませんが、2人が歩いているのは、現在「イシイの甘栗 浅草六区店」がある前あたりでしょう。
次に「浅草ビューホテル」が背景に見えている通りは、すでに別の道「花やしき通り」に変わっています。
⑩台東区浅草「花やしき通り」←父にビールを買ってもらった路上
父が自動販売機のたばこを買い、その後、英雄のためにやはり自動販売機で缶ビールを買うのは「花やしき通り」です。
日本最古の遊園地として、嘉永6年(1853年)にオープンした「花やしき」。ビール自動販売機の後ろには、シンボル的アトラクション「Beeタワー」がはっきり見えていますが、同タワーは平成28年(2016年)に解体され、跡地には2019年に「浅草花劇場」がオープンしました。
名称 | 浅草花やしき |
住所 | 東京都台東区浅草2-28-1 |
公式HP | https://www.hanayashiki.net/ |
⑪台東区西浅草「東本願寺」南側道路←父とキャッチボールした路上
英雄と父がキャッチボールをする路上は、西浅草にある「東本願寺」に隣接し南側を走る道路上です。
奥で「かっぱ橋道具街通り」とT字路になっており、正面にみえる少々派手な色使いの外壁を持つ「イシヤマ」は、看板やショーケースを売る店として今も営業しています。
名称 | 東本願寺 |
住所 | 東京都台東区西浅草1-5-5 |
公式HP | https://www.honganji.or.jp/ |
⑫台東区浅草「今半別館」←両親とすき焼きを食べた店
英雄が最後の晩餐として両親を連れていくのは、すき焼きの名店「今半別館」。本作きっての名シーンが撮影されました。
しかし、実は玄関から内部もすべて「今半別館」に似せてつくったセット。純日本風の内装が見事に再現されています。
「今半」は、明治28年(1895年)に新仲見世通りに創業。大正10年(1921年)に暖簾分けし「今半別館」が創業されました。
名称 | 今半別館 |
住所 | 東京都台東区浅草2-2-5 |
公式HP | http://www.asakusa-imahan.co.jp/ |
『異人たちとの夏』鑑賞後は、ぜひ浅草のロケ地めぐりを!また原作もおすすめ!
以上、映画『異人たちとの夏』のロケ地となった12か所を特定し、ご紹介しました。
撮影が行われたのは1988年の春。すでに35年以上が経過しました。
残念ながら、中には閉店したり、再開発によって大きく姿を変えた場所もありますが、まだじゅうぶんに撮影当時の趣を残しているのが、さすが浅草です。
主人公の気分になって浅草を散策してみてはいかがでしょうか?
また映画はデジタルリマスター処理がなされたブルーレイも発売されており、ファンの方には保存版としていかがでしょうか?
山田太一の原作も、映画とは異なる味わいがありおすすめです。すき焼きを食べるシーンは、映画以上に、涙なくして読むことはできません!