ゲイの矯正施設を体験した青年が、自ら執筆した回顧録を映画化した2018年の作品『ある少年の告白』。
本記事では、同映画のあらすじやキャストなどの情報にくわえ、実話とモデルとなった人物についても詳しくご紹介したいと思います。
『ある少年の告白』のあらすじ(ネタバレあり)
俳優でもあるジョエル・エドガートンがメガホンをとり、豪華なキャストを揃えた2018年の映画が『ある少年の告白』です。ガラルド・コンリーの回顧録『Boy Erased: A Memoir』が原作になっています。
原題「Boy Erased」とは、意味を直訳すると「消された少年」。
実在する、LGBTQを矯正させる「救済プログラム」を受けさせられた少年の施設における異様な体験と、キリスト教の敬虔な信者である家族の苦悩や葛藤が描かれます。
あらすじ
アーカンソー州の田舎町で、信心深いバプティストの両親のもとで育てられた19歳の一人息子ジャレッド。
大学の学生寮で起きたある事件がきっかけとなり、ゲイであることが両親の知るところとなってしまいます。
牧師でもある父のすすめで、教会が支持する矯正施設に入所。サイクスという名のセラピストが指導するプログラムに参加するのですが……。
以下、ネタバレ。
施設で行われていたのは、個人の人格を否定し、また家族関係を分断するかのような異常な儀式と洗脳行為でした。
ジャレッドは、独善的な価値観を強制するサイクスのやり方が受け入れられず、ついに激しく衝突します。母に電話して施設から逃亡するのでした。
4年後、ニューヨークで恋人と暮らすジャレッドは、施設での体験を綴った本を出版します。いまだ和解ができず、疎遠になっていた父と向き合う決心をし、それぞれが思いをぶつけあうことでようやく互いを理解し合うのでした。
監督・脚本のジョエル・エドガートンについて
メガホンをとったのは、ヴィクター・サイクス役としても登場する俳優のジョエル・エドガートンです。
ジョエル・エドガートンは、1974年6月23日生まれ、オーストラリアのニューサウスウェールズ出身。シドニーで演技を学んだのち、俳優としてキャリアをスタートさせました。
主な出演作には『スター・ウォーズ エピソード2/クローンの攻撃』『ゼロ・ダーク・サーティ』『華麗なるギャッツビー』などがあります。主人公を演じた『ラビング 愛という名前のふたり』ではゴールデングローブ賞の主演男優賞にノミネートされました。
1996年にスタントマンの兄らとともに「ブルー=タン・フィルムズ」を設立。映画配給や製作に携わってきましたが、2015年、ついに映画『ザ・ギフト』で監督としてデビューしました。
監督2作目となった『ある少年の告白』は高く評価され、ゴールデングローブ賞やオーストラリア映画協会賞など各国で複数の賞にノミネートされました。
主要登場人物とキャスト
①ジャレッド・エモンズ/ルーカス・ヘッジズ
本作の主人公ジャレッドを演じているのは注目の若手、ルーカス・ヘッジズです。
ルーカス・ヘッジズは、1996年12月12日、ニューヨーク出身。父のピーター・ヘッジズは『ギルバート・グレイプ』の脚本も手掛けた監督・脚本家、また母も女優という映画一家に生まれました。
2016年の映画『マンチェスター・バイ・ザ・シー』で数々の賞を受賞あるいはノミネートを果たし、一躍注目されます。
ゲイの青年を演じるのは、2017年の映画『レディ・バード』のダニー役に続き、2度目です。
②ナンシー・エモンズ/ニコール・キッドマン
夫の言いなりから、やがて息子の真の理解者となる母ナンシーをニコール・キッドマンが演じています。
2002年の映画『めぐりあう時間たち』でアカデミー主演女優賞受賞など、世界中で多くの賞に輝き、今や風格すら感じられる大女優となったニコール・キッドマン。本作のナンシー役も非常に高い評価を受け、オーストラリア映画協会賞助演女優に輝いています。
③マーシャル・エモンズ/ラッセル・クロウ
敬虔な牧師であり、車のディーラーを営む父のマーシャルをラッセル・クロウが演じています。
『ビューティフル・マインド』や『グラディエーター』など数々の世界的ヒット作で知られる大スターでありながら、私生活はいろいろな問題児ぶりで知られるラッセル・クロウ。男らしいセックスシンボルから、今や肥満の巨体を堂々とさらしていますが、繊細な演技はさすがです。
ニコール・キッドマンとは大の親友で知られていますが、本作が念願の初共演です。
④ヴィクター・サイクス/ジョエル・エドガートン
矯正施設のセラピストであるヴィクター・サイクスを、監督のジョエル・エドガートンが扮しています。
単純な偽善者とは言い切れない、深い闇を感じさせる人物造形は、さすが実力派俳優でもあります。
⑤ジョン/グザヴィエ・ドラン
施設に入所させられているゲイの青年の一人ジョンを演じているのが、今をときめくグザヴィエ・ドランです。鼻に傷があり、敬礼することで自己防衛している青年です。
1989年3月20日生まれのカナダ人であるグザヴィエ・ドランは、今最も注目される若手映画監督兼俳優の一人です。
19歳だった2009年に、『マイ・マザー』で監督デビューののち、発表する作品が次々と国際的な映画祭で高い評価を得ます。2016年には『たかが世界の終わり』でカンヌ国際映画祭グランプリに輝きました。
オープンリーゲイで知られています。
『ある少年の告白』の見どころポイント
①原作者であるガラルド・コンリーと両親
本作の原作となった『Boy Erased: A Memoir』の著者であり、主人公ジャレッドのモデルでもあるのが、ガラルド・コンリーです。残念ながら原作の日本語翻訳はなされていません。
施設の職員としてカメオ出演もしています。
ガラード・コンリーは1985年4月15日生まれであり、映画で描かれた内容は、ほぼ実体験に忠実です。映画のラストで紹介された通り、現在は執筆業のかたわら、LGBTQの権利のためのアクティビストとして、ニューヨークを拠点に活動しています。
同性婚を果たし、夫と幸せな家庭を築いているほか、母親のマーサ、父のハーシェル・コンリーとも良好な関係を築いているようです。
母のマーサはガラルド・コンリーのインスタに頻繁に登場。また、ハーシェルとラッセル・クロウのツーショット写真をマーサがツイッターにアップしているところからも円満さがうかがわれます。
②ヴィクター・サイクスのモデルとなった実在のジョン・スミッド
映画のエンドクレジットで、ヴィクター・サイクスのモデルとなったジョン・スミッドは2008年に施設を去り、現在はテキサスで夫と暮らしているとのクレジットが流れます。
つまり、映画では明確に描かれてはいませんが、ジョン・スミッド自身が実はゲイでした。
自ら、ゲイからストレートへの更生に成功したことを売りにしていたセラピストでしたが、2008年に施設を去ったのち、それが事実ではないことを認めるに至ったのです。
2012年には、回顧録を自費出版しています。
③物語の舞台になった矯正施設のLIAとは?
「映画完成時、36州が未成年の矯正治療をいまだ認可している」という衝撃の事実が、エンドクレジットで流れます。
本作の舞台となっており、1973年にカリフォルニアで設立されたLIA(Love In Action)は、そういったセラピーを行っていた代表的な団体の一つでした。
2012年に「LIA」から「Restoration Path」に名称変更しつつ、活動は継続していましたが、2019年10月、ついに解散に至りました。
④ミュージシャンのトロイ・シヴァンとフリーが出演!
入所仲間の金髪の青年ゲイリーを演じているのは、オーストラリア人シンガー・ソングライターのトロイ・シヴァンです。
ユーチューバーとしてスタートし、オーディション番組出演などを経て、2013年、EMIと契約してプロデビューしました。2014年にリリースした「TRXYE」はビルボード全米TOP5にランキングしています。
本作では俳優として出演するのみならず、「Revelation」と「The Good Side」というオリジナル曲を楽曲提供しています。
また、サイクスの片腕であるブランドンを演じているフリーも人気アーティストです。レッド・ホット・チリ・ペッパーズのオリジナル・メンバーの1人であり、現在もベーシストとして活動しています。
⑤オーストラリアつながりによる、息のあったコラボ
ジョエル・エドガートン、ニコール・キッドマン、トロイ・シヴァン、フリーの4人がオーストラリア人、またラッセル・クロウもオーストラリア育ちのニュージーランド人とあって、息の合ったコラボレーションぶりが作品からもうかがい知れます。
特に親友同士であるニコール・キッドマンとラッセル・クロウの名演技は、本作の大きな見どころのひとつ。もちろん主人公は息子のジャレッドですが、両親の抱える苦悩や葛藤が、物語をより深いものにしているのです。
GLAADメディア賞に輝いた映画『ある少年の告白』
映画『ある少年の告白』は、LGBTQ団体は主催する第30回GLAADメディア賞において最優秀作品賞に輝きました。
U-NEXTなどいくつかのストリーミングサービスでも視聴可能ですから、ぜひ鑑賞してみてはいかがでしょうか?
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