向田邦子による脚本、和田勉の演出、名優たちの演技があわさり、日本のドラマを代表する傑作となった『阿修羅のごとく』。
1979年と1980年に放送されたオリジナルのNHK版に続き、これまで複数回の映画・芝居化がなされてきました。そして2025年、是枝裕和監督の手で再ドラマ化されることがNetflixより発表されました。
本記事では『阿修羅のごとく』の概要と簡単なあらすじなどの紹介にくわえ、各リメイク作品の違いなどをわかりやすく比較してみたいと思います。
名作ドラマ『阿修羅のごとく』がNetflixでリメイク決定!
昭和に制作された日本のドラマを代表する名作『阿修羅のごとく』が、Netflixにおいてリメイクドラマ化されることが発表されました。監督は、国際的な評価も高い是枝裕和とあって、すでに大きな期待の声が高まっています。
四姉妹を演じるのは、宮沢りえ、尾野真千子、蒼井優、広瀬すず。
さて、そもそも『阿修羅のごとく』とは、どんな物語なのでしょうか?
『阿修羅のごとく』とはどんなドラマか?
向田邦子が脚本を手掛け、2シーズンに分けて放送されたNHKドラマ『阿修羅のごとく』は、老父の浮気をきっかけに揺れ動く四姉妹の姿を毒と皮肉交じりに描いた、大人の人間ドラマです。
1979年1月13日から27日まで、「土曜ドラマ」枠の「向田邦子シリーズ」としてパート1全3話。続編となるパート2が、1980年1月19日から2月9日まで、全4話構成で放送されました。
数々の大ヒットドラマ、秀作ドラマの名脚本家、そして直木賞作家となるも、飛行機事故で不慮の死を遂げた向田邦子の文字通り代表作の一つであり、また、NHKの名演出家として知られていた和田勉が演出を手掛けました。
その後、2003年に森田芳光監督の手で映画化、そして2004年、2013年、2022年と3度の舞台化がなされており、この度のNetflix版は、のべ5度目の作品化にあたります。
■簡単あらすじ
【アカイさんコラム】
— NHKアーカイブス (@nhk_archives) August 21, 2024
~八千草薫特集~
「土曜ドラマ 向田邦子シリーズ 阿修羅のごとく」(1979年)
コメディ・タッチの中に人の心の「阿修羅」を描いた向田邦子の傑作ドラマ。<『姉妹ってきっとこういうものなんだろうな』と思うことができました>と次女役の八千草さん。https://t.co/ugd2Zz6n4R
老いた父・恒太郎に愛人と隠し子がいることが判明し、動揺する四姉妹。長女は華道の師範である未亡人の綱子、専業主婦の次女・巻子、図書館に勤める堅物の三女・滝子、自由奔放な四女・咲子。4人は相談し、母のふじには言わずに隠す通すことにします。
しかし実は、四姉妹それぞれが身内にすら言えない事情を抱えており、次第にその内情が明らかになります。綱子は自身が不倫中、夫の浮気疑惑を拭えない巻子、不器用で恋愛に素直になれないハイミスの滝子に対し、金のない無名ボクサーと同棲する咲子……。
姉妹たちは、女のエゴや愛憎をぶつけ合い、衝突しますが、そんな中、穏やかでおおらかだと思っていた母にも別の顔があることが判明します。
※ネタバレ含む、詳しいあらすじは以下の記事をご覧ください。
脚本を手掛けた向田邦子について【代表作・死因】
向田邦子は、1929年11月28日、東京の世田谷生まれ。雑誌記者から転身し、脚本家として数々の名ドラマを手掛けます。70年代には、倉本聰・山田太一と並ぶ御三家とも呼ばれました。代表的作品には、『七人の孫』『だいこんの花』『時間ですよ』『寺内貫太郎一家』『あ・うん』などがあります。
1978年にはエッセイ集『父の詫び状』を発表して絶賛されたほか、1980年には連作小説『花の名前』『かわうそ』『犬小屋』(『思い出トランプ』に収録)で直木賞を受賞し、小説家としても高い評価を得ました。
ところが、物書きとしてまさに脂の乗り切った時期にあった1981年8月22日、取材のため訪れていた台湾で航空機墜落事故に遭遇し、51歳で死去しました。
死後も、「向田邦子新春シリーズ」と題され、向田原案のスペシャルドラマが、毎年お正月恒例で放送されるなど、その人気は衰えることはありません。
誰もが認める代表作の一つである本作『阿修羅のごとく』については、向田邦子による原作もぜひ一読をおすすめします。毒とユーモアにあふれた台詞、深いト書きをじっくり堪能できるほか、2011年に亡くなった和田勉によるドラマの裏話などの解説も必読です。
ちなみに、向田邦子は、生涯独身を貫きましたが、秘められた激しい恋があったことを、実妹である和子がその著書『向田邦子の恋文』の中で公表し、大きな話題をよびました。
各リメイク作品の比較<キャスト・見どころ>
NHK版 (1979/80) | 映画版 (2003) | 舞台版 (2004) | 舞台版 (2013) | 舞台版 (2022) | Netflix版 (2025) | |
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三田村綱子 | 加藤治子 | 大竹しのぶ | 山本陽子 | 浅野温子 | 小泉今日子 | 宮沢りえ |
里見巻子 | 八千草薫 | 黒木瞳 | 中田喜子 | 荻野目慶子 | 小林聡美 | 尾野真千子 |
竹沢滝子 | いしだあゆみ | 深津絵里 | 秋本奈緒美/ 森口博子 | 高岡早紀 | 安藤玉恵 | 蒼井優 |
竹沢咲子 | 風吹ジュン | 深田恭子 | 藤谷美紀/ 細川ふみえ | 奥菜恵 | 夏帆 | 広瀬すず |
竹沢恒太郎 | 佐分利信 | 仲代達矢 | 長門裕之 | 林隆三 | ー | ? |
竹沢ふじ | 大路三千緒 | 八千草薫 | 南田洋子 | 加賀まりこ | ー | ? |
【1】オリジナルのNHKドラマ版(1979/80)
和田勉による演出と、達者な役者陣の素晴らしさについては、今さら言うまでもありませんが、本作を語る上で、はずせないのが、トルコの軍楽を大胆に使用したテーマ音楽です。
30数年前の作品とは思えないほど、現代にも通じる普遍性と面白さがあります。四姉妹を演じた女優の中では、加藤治子と八千草薫がともに故人です。
【2】森田芳光監督による映画版(2003)
映画『それから』で組んだ森田芳光監督と筒井ともみの脚本による映画版。オリジナルで綱子を演じた加藤治子がナレーション、巻子を演じた八千草薫が母・ふじ役で出演しているのが見どころです。
上記キャスト以外では、鷹男を小林薫、勝又を中村獅童、「枡川」の夫婦を桃井かおりと坂東三津五郎、赤木を木村佳乃、巻子の娘役で長澤まさみら、なかなかに豪華なキャストを取り揃えました。ただ、2時間の映画にしたことで多くの重要なセリフやシーンがカットされているのは残念。
【3】舞台版(2004)
初舞台化作品であり、芸術座と博多座で上演されました。長門裕之・南田洋子という実生活の夫妻が、物語の老夫婦を演じました。
【4】舞台版(2013)
二度目の舞台化で、文学座の松本祐子が演出を担当。テアトル銀座、大阪・森ノ宮ピロティホール、名古屋・名鉄ホールで上演されました。
オリジナルのNHK版で巻子の娘役を演じていた荻野目慶子が、33年の時を経て、今度は巻子役を演じました。
【5】舞台版(2022)
3度目の舞台化は、女優としても活躍する木野花が演出を手掛け、小泉今日子を起用するなど話題性と奇抜さを狙ったややマニア向けの作品となりました。老夫婦は登場せず、また男性キャストも二人の役者が、それぞれ一人二役で登場します。
東京・シアタートラム、兵庫県立芸術文化センター阪急中ホールで上演されました。
『阿修羅のごとく』主要登場人物13人・相関図とNetflix版キャスト
Netflix版では人物設定に変更が加えられる可能性もありますが、詳細判明しましたら更新したいと思います。
また、2024年11月15日現在、キャストは四姉妹以外まだ未公表であり、こちらも公表され次第更新します。ただ以下の13人は物語の根幹を構成する人物であり、全員登場するはずです。
①長女:三田村綱子/宮沢りえ
夫に先立たれた未亡人で、生け花の先生として生計を立てています。仙台に暮らす一人息子・正樹がいます。生け花の取引先でもある料亭「枡川」の主人・貞治と不倫関係にあります。
②次女:里見巻子/尾野真千子
阿佐ヶ谷に住む専業主婦で、宏男と洋子という中学生の一男一女がいます。会社員の夫・鷹男が秘書の赤木と浮気しているのではないかと疑心暗鬼になっていますが、表向きは平然と、その気持ちを覆い隠しています。
③三女:竹沢滝子/蒼井優
図書館で働く司書であり、堅物の独身です。父の素行調査を依頼した縁で、興信所の調査員・勝又と惹かれあうようになりますが、互いに不器用で関係を深められません。性格が真逆の四女・咲子とは、犬猿の仲。
④四女:竹沢咲子/広瀬すず
喫茶店のウェイトレスをしながら、無名のボクサー・陣内と安アパートで同棲しています。自由奔放で、ずけずけと言いたいことを言う性格です。
⑤父:竹沢恒太郎/?
国立(くにたち)の一軒家で老いた妻と2人暮らし。すでに定年退職しており、週に数回知り合いの会社に出勤しているだけの身分です。子持ちの土屋友子と8年前から愛人関係にあったことが判明したことから、物語が始まります。
⑥母:竹沢ふじ/?
しっかり者でおおらかな母です。しかし、些細なことにも動じない、優しい母・妻の顔とは別に、内なる闇を抱えていることが次第に明らかになります。
⑦里見鷹男/?
会社勤めの部長で、巻子の夫です。巻子から、秘書の赤木と浮気しているのではないかと疑われています。
⑧勝又静雄/?
恒太郎の調査を担当した興信所の調査員です。それが縁で、滝子と互いに惹かれ合う関係になりますが、滝子以上に不器用なためなかなか踏み込めません。
⑨陣内英光/?
新人王を狙う、無名のボクサーで咲子の恋人です。
⑩枡川貞治/?
料亭「桝川」の主人で、綱子の不倫相手です。
⑪枡川豊子/?
料亭「桝川」の女主人で、貞治の妻です。
⑫土屋友子/?
恒太郎の不倫相手です。小学4年の息子・省二がいます。
⑬赤木啓子/?
鷹男の秘書です。巻子は鷹男の浮気相手だと疑っています。
Netflix版『阿修羅のごとく』の監督・脚色・編集を手掛ける是枝裕和について
Netflix版リメイク『阿修羅のごとく』で監督・脚色・編集の三役を務めるのは、国内外で高い評価を得ている是枝裕和。
テレビ制作会社のディレクターから映画監督に転身し、1995年の『幻の光』でデビューしました。2004年の『誰も知らない』では、主演の柳楽優弥をカンヌ国際映画祭最優秀男優賞に導き、2013年の『そして父になる』で同映画祭審査員賞、2018年の『万引き家族』で同映画祭パルム・ドールを受賞し、ついに最高の栄冠を手にしました。
映画製作にあたっては、多額の補助金をもらっておきながら、あからさまに政府を批判する矛盾ぶりが物議を醸したこともあります。
ちなみに、2014年の映画『海街diary』も本作と同じ四姉妹の物語であり、合わせて鑑賞してみてはいかがでしょうか?
Netflix版『阿修羅のごとく』は2025年1月9日配信スタート
Netflix版『阿修羅のごとく』は、2025年1月9日より配信されることが発表されています。
既述の通り、2024年11月15日現在公表されているのは四姉妹のキャストのみで、その他のキャスティングやドラマの話数などは明らかになっていません。
NHK版の完成度が高すぎるため、その後の映画版・芝居版とも、残念ながらオリジナルを超える作品はありません。
それまでの映画化・芝居化とは違い、今回はドラマシリーズということで、事実上、完全なる初のリメイクだと言えるでしょう。
すでに公開されたオープニング映像を見る限り、完成度は高く、否が応でも期待が高まります。オリジナルのトルコ軍楽を明らかに意識したのであろう音楽も秀逸です。