女優のエレン・ペイジが世界を旅し、各国のLGBTQ事情を取材するドキュメンタリーシリーズが『ゲイケーション ー世界のLGBTQ事情ー』(原題:Gaycation)です。
本記事では、同シリーズの概要、および、エレン・ペイジと同行者の親友イアン・ダニエルについて、続いて各エピソードの内容と見どころポイントをくわしくご紹介したいと思います。
『ゲイケーション -世界のLGBTQ事情-』とは?
女優のエレン・ペイジと親友イアン・ダニエルが、一緒にあるいは一人で世界数か国を旅し、その国のLGBTQたちがどのような状況に置かれているかを体当たりで取材します。
国の宗教や文化・歴史などの違いによって、LGBTQたちが置かれている環境も立場もさまざま。その現場に直接立ち合い、当事者たちの話を聞くことで、エレンたちは激しい感情に突き動かされます。
マイノリティーやカウンターカルチャーなどの題材に積極的に取り組んでいるメディア「VICE」のテレビ・チャンネル「VICELAND」において、2016年から2017年にかけて2つのシーズンが放送されました。両シーズンともエミー賞候補にのぼるなど、非常に高い評価をえています。
日本においては、Huluで独占配信されていましたが、残念ながら終了。
2020年12月、トランスジェンダーであることを公表し、名前をエリオット・ペイジに改名したエレン・ペイジが、公表前に出演したドキュメンタリーシリーズです。よって、本記事においてはエレンで統一します。
キャストの2人について
■エレン・ペイジ(エリオット・ペイジ)
エレン・ペイジについては、下記記事をご覧ください。
生い立ち、キャリアとおすすめの代表的出演作品にくわえ、トランスジェンダーとしてカミングアウトする経緯や結婚・離婚などプライベートについても詳しく記しています。
■イアン・ダニエル
親友のエレンとともに出演するばかりか、本作のエグゼクティブプロデューサーに名を連ねているのがイアン・ダニエルです。
イアン・ダニエルは、インディアナ州出身のニューヨーク在住で、プロデューサー、ライター、キュレーターとして活動しています。
本作のほか、やはりエレン・ペイジと共同で監督したドキュメンタリー映画『There’s Something in the Water』を発表し、2019年のトロント国際映画祭でプレミア上映されました。環境問題をテーマにしたものです。
もちろんオープンリーゲイとして、アクティビストの顔も持っています。
『ゲイケーション -世界のLGBTQ事情-』各エピソード紹介と見どころ
シーズン1、シーズン2ともそれぞれ4つのエピソードで構成されています。また、各シーズン終了の数か月後にはスペシャルエピソードも放送されました。
シーズン1
エピソード1:日本
ゲイバーの数で世界有数の規模を誇る新宿二丁目を訪ね、実際に客として店に入ります。二丁目でも最古のバーの一軒「洋チャンち」(2020年に店主他界により閉店)、レズビアンバー「ゴールドフィンガー」、さらに秘密の女装クラブ……。
また、日本独特のBL文化や腐女子にも迫ります。
見どころは、2人が実際にお寺で同性婚を体験するところ。さらに、一人のゲイの青年が勇気を出して母親にカミングアウトする現場に同席します。
エピソード2:ブラジル
一見、LGBTQの自由な楽園にも見えるブラジル、リオデジャネイロ。その反面、ホモフォビアによるLGBTQ殺人の発生率が世界一高い現実を直視します。
女優として大成功したトランスジェンダーと、セックスワーカーやホームレスを余儀なくされている底辺のトランスジェンダーたちの両方を取材し、貧困と経済的格差の問題に切り込みます。
雇われの殺し屋としてこれまで何人もゲイを殺害してきたという覆面の男にインタビューするシーンでは、2人の緊張感がこちらにもリアルに伝わってきます。
エピソード3:ジャマイカ
世界的にも同性愛差別が激しい国だと言われているジャマイカ。
エレンは、嫌悪をあらわにするコミュニティの指導者やミュージシャンと直に向き合い、激しく侮辱されながらもインタビューを試みます。
そうした厳しい現実の中、ジャマイカ初のプライド・パレードに立ち会うことに……。
エピソード4:アメリカ
2015年6月に最高裁で認められた同性婚と、その後、信教の自由との間で巻き起こった論争。エレンは、保守派の先鋒、テッド・クルーズ上院議員に体当たりでインタビューを試みます。
また、サンフランシスコやロサンゼルスなど全米各地を回り、トランスジェンダーの現実に向きあうことに……。史上最高犯罪数を記録するトランスジェンダー女性の殺害が多い現実について、ストーンウォール反乱を主導したリーダーの一人だった人物、また被害者の家族にインタビューします。
終盤は、エレンと、やはりLGBTQの一人であるエレンのマネージャーのケリー・ブッシュが、エレン自身の生き方の変化とカミングアウトを語ります。
シーズン2
エピソード1:ウクライナ
革命と政治的混乱に揺れるウクライナ。エレンとイアンは、一人のドラァグクイーンと一緒に、キエフ唯一のLGBTQのクラブを訪ねます。かつて爆破テロの標的にもなったクラブでした。
逆に、LGBTQを攻撃する極右過激グループのリーダーにもインタビュー。
また、まだ公式には認められていないキエフ初の同性婚を挙げるゲイカップル、ロシアの侵攻で東部からキエフに逃れてきたレズビアンカップルなどを取材します。
エピソード2:インド
イギリス植民地時代の同性愛違法の法律が今も残り、またお見合い結婚がほとんどだという保守的な家の概念が根強いインド。
ムンバイの進歩的な家族やゲイクラブを取材。しかし、深刻なのは女性たちが置かれた状況でした。強い家父長制の中で、なかなか表に出てこないレズビアンの女性たちに取材を試みます。
さらには、ヨガの大家の話を聞き、同性愛を治療するというヨガを実際に体験してみるエレンとイアン……。かたや「ヒジュラ」と呼ばれ、第3の性として国から認められつつも、多くの問題を抱えるトランスジェンダーの問題にも迫ります。
エピソード3:アメリカ深南部
全米の中でも保守的で共和党色が強い深南部、テキサス州やルイジアナ州など「バイブル・ベルト」と呼ばれる地域をイアンが一人で旅します。
その風土ゆえ、HIVなどに関する教育が遅れ、全米でも発症率が高い地域になってしまっていること、また暴力や性被害の犠牲者たちに会って、直接話を聞きます。
エピソード4:フランス
パリの有名なゲイタウン、マレ地区でナイトライフを満喫する自由で平和なゲイたちの姿。2013年には同性婚も認められたフランスの、別の問題にイアンが迫ります。
60年前、「バンビ」の名で踊子として人気を博したトランス女性にインタビュー。
そうした自由が白人のゲイに限られた話であり、有色人種のLGBTQ、特にトランスジェンダーに対する差別が非常に強いという現実に直面します。
『ゲイケーション -世界のLGBTQ事情-』のシーズン3は?
本作品でさまざまな立場のLGBTQたちと出会ったことが、その後のエレン・ペイジの生き方に大きな影響を与えたことは容易に推測されます。
二人ともリベラルで民主党支持者であるため、番組の流れはどうしても一方向の視点にならざるを得ないことを前提に視聴すべきですが、だとしても、十分に骨太で見ごたえのあるドキュメンタリーシリーズに仕上がっています。(ちなみに、2017年に放送されたシーズン2のスペシャルエピソードは反トランプのキャンペーンになっています。)
一つ明らかになったのは、日本は他の国々といくぶん状況が異なるということ。露骨な差別や犯罪に巻き込まれるといった過酷な状況はなく、むしろ精神的な問題が大きいことがわかります。
さらに多くの国の事情を知りたくもあり、またエリオット・ペイジとして新しく生まれ変わった彼がどんな風に考えるのかも知りたいところですが、シーズン更新の予定はありません。
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