AIDS禍が暗い影を落とす、1980年代から90年代初頭にかけてのニューヨーク、「ボールルーム」を主な舞台に、LGBTQたちの生きざまをスタイリッシュに描いたドラマシリーズ『POSE/ポーズ』。
2018年にシーズン1、2019年にシーズン2、そして2021年に完結となるシーズン3が放送されました。
主要登場人物を演じるキャストは全員、実生活でもトランスジェンダーやゲイの俳優たちですが、それぞれのキャラクターには、モデルとなっている実在の人物が存在します。
ここでは、そんな10人の登場人物ついて、モデルと考えられる15人の実在の人物をご紹介します!
『POSE/ポーズ』の主要登場人物には実在のモデルが存在!
ドラマ『POSE/ポーズ』の物語はもちろんフィクションではありますが、1990年のドキュメンタリー映画『パリ、夜は眠らない。』と当時のボール・シーンに深い影響を受けていることは言うまでもありません。
ドラマの主要登場人物は、『パリ、夜は眠らない。』に登場する人物たちから着想を得ているか、あるいは複数の実在の人物を組み合わせる形でキャラクターづくりがなされています。
10人の登場人物/キャストとモデルとなっている実在の人物
ドラマのキャラクターとキャスト、そしてあらすじなどについての詳しい紹介は、下記の記事をご覧ください。
①ブランカ→アンジー・エクストラヴァガンザ
MJ・ロドリゲス演じる本作の主人公ブランカ・エヴァンジェリスタの、モデルとなっている女性の一人がアンジー・エクストラヴァガンザです。
アンジー・エクストラヴァガンザは『パリ、夜は眠らない。』にも登場する「ハウス・オブ・エクストラヴァガンザ」の伝説的マザー。創設者のヘクター・ヴァレが1985年に死去したのち、あとを継いでマザーとなりましたが、子どもたちに対する面倒見の良さと献身的な言動で広く愛される存在でした。
1993年、AIDS関連症候群により28歳で死去。死の3週間後、「New York Times」がその死を悼み、ボールルームについての記事「Paris Has Burned」(パリは眠りについた)を掲載したほどです。
「ハウス・オブ・エクストラヴァガンザ」は現在も続く大ファミリーです。
②エンジェル→オクタヴィア・サンローラン/トレイシー・ノーマン/カルメン・エクストラヴァガンザ
インディア・ムーア演じるエンジェルのモデルと考えられる女性が3人います。
■オクタヴィア・サンローラン
『パリ、夜は眠らない。』のメイン・キャストの一人でもあったオクタヴィア・サンローラン。同映画の中で、フォード・モデル・エージェンシーのオーディションを受けるというエピソードは、そのままドラマのエンジェルと同じです。
オクタヴィアは、女優として、ダニー・グローヴァーとマット・ディロンが主演した1993年の映画『聖者の眠る街』に出演しているほか、2006年のドキュメンタリー映画『How Do I Look』にも登場します。
そのほか、複数のオリジナル曲をリリースしたり、AIDSやトランスジェンダーの権利のための啓蒙活動をしたりしていましたが、2009年にガンにより死去しています。
■トレイシー・ノーマン
2人目は、トランスジェンダーのモデルとして世界で最初の成功をおさめたトレイシー・ノーマン(左)です。Avonやバレンシアガのモデルをつとめるなど、売れっ子として活躍していましたが、トランスジェンダーであることが公になって一時は業界を干され、ボールルームで自身の「ハウス・オブ・アフリカ」を創設するに至りました。
その後、名誉を回復するかのように、2016年にClairolのキャンペーンモデルに抜擢され、さらにトランス女性のモデルとして初の「ハーパース・バザー」の表紙を飾りました。
2017年、「イタリアン・ヴォーグ」の特集「タイムレス・イシュー」において、ローレン・ハットンやイマンと並んで、当時66歳のトレイシーも登場しました。
■カルメン・エクストラヴァガンザ
3人目は映画『How Do I Look』にオクタヴィア・サンローランと一緒に出演しているカルメン・エクストラヴァガンザです。
「ハウス・オブ・エクストラヴァガンザ」の一員として活躍するも、アメリカではモデルとして受け入れてもらえず、トランスジェンダーであることを隠して渡ったスペインでようやく成功をおさめました。
ドラマでエンジェルの体験する苦難に繋がるものがあります。
カルメン・エクストラヴァガンザは、1961年生まれ。2023年8月、肺がんにより62歳で亡くなりました。
③プレイ・テル→ジュニア・ラベイジャ
Today I profile Junior LaBeija, the original PARIS IS BURNING emcee. An unheralded genius whose influence in 2021 can be felt everywhere. https://t.co/21RNORxHmm pic.twitter.com/tKbfLlNOr1
— Seth Abramovitch (@SethAbramovitch) June 11, 2021
『パリ、夜は眠らない。』に登場し、司会としてボールを仕切る男性がビリー・ポーター演じるプレイ・テルのモデルとも言える、ジュニア・ラベイジャです。
現在も「ハウス・オブ・ラベイジャ」の重鎮として、ボールルームの生き字引とも言える存在であり、ドラマ『POSE/ポーズ』の製作にあたっては、アドバイザーとして関わっています。
④デイモン→ウィリー・ニンジャ/ホセ・エクストラヴァガンザ
ライアン・ジャマール・スウェイン扮するデイモンのモデルとしては、2人の有名ダンサーがいます。
■ウィリー・ニンジャ
ウィリー・ニンジャは、「ヴォーギングの父」と称されるダンサー兼振付師であり、マドンナの「ヴォーグ」より早く、マルコム・マクラーレンのMV「ディープ・イン・ヴォーグ」に出演して一躍注目を集めました。
その後は、ジャネット・ジャクソンのMV「オールライト」や「エスカペイド」に出演したり、ジャン・ポール・ゴルチエやティエリー・ミュグレーのショーに出演したりと、世界を股にかけ華々しい活躍をしました。
2006年、AIDS関連症候群により45歳で死去。彼が創設した「ハウス・オブ・ニンジャ」のメンバーは現在も世界中で活躍しています。
■ホセ・エクストラヴァガンザ
もう一人は、現在もダンサー兼振付師として活躍しているホセ・エクストラヴァガンザです。
マドンナのMV「ヴォーグ」にメインダンサーとして登場するほか、世界ツアーにも参加しました。ドラマ『POSE/ポーズ』に審査員役でカメオ出演しています。
⑤エレクトラ→クリスタル・ラベイジャ/ドリアン・コーリー
ドミニク・ジャクソンが演じたエレクトラのモチーフになっている人物も2人います。
■クリスタル・ラベイジャ
Crystal LaBeija was a Black trans woman, drag queen, and a mother figure for homeless and underprivileged LGBTQ+ youth in the 1960s and 70s. pic.twitter.com/4OEqaIfeDP
— PIX11 News (@PIX11News) June 10, 2022
一人は、「ハウス」や「マザー」という概念を生み出した元祖の一人、クリスタル・ラベイジャ。
「ミス・マンハッタン」に選ばれて出場した、ドラァグクイーン・コンテストの舞台裏を描いた1968年のドキュメンタリー映画『The Queen』の主要キャストとしても有名です。
同映画の中で、黒人クイーンに対する差別反対を声高に主張しますが、その後、「ハウス・オブ・ラベイジャ」を創設。白人が中心だった当時のボールにおいて、黒人のマザーとして初の「ボールの女王」に選ばれた先駆者的存在です。
1982年に死去。ル・ポールが多大な影響を受けたドラァグクイーンとしても知られています。
■ドリアン・コーリー
もう一人は『パリ、夜は眠らない。』のメイン・キャストの一人でもあったドリアン・コーリーです。
コーリーが1993年にAIDS関連症候群で死去した際、自宅のクローゼットから、頭を銃で撃たれてミイラ化した遺体が発見されます。
遺体は、女性に対する性的暴行で逮捕歴のあるロバート・ウォーリーであることが判明。コーリーがDVに耐えかねて自衛のために殺害してしまったと推定されていますが、真偽は明らかではありません。この実話が、そのまま『POSE/ポーズ』のエレクトラのエピソードに使用されました。
ドリアン・コーリーの人気は高く、今もフィラデルフィアでその名を冠したボールが定期的に開催されています。
⑥キャンディ→ヴィーナス・エクストラヴァガンザ
アンジェリカ・ロスが演じたキャンディのモデルとなっているのが『パリ、夜は眠らない。』にも出演していたヴィーナス・エクストラヴァガンザです。
ヴィーナスは、1983年に「ハウス・オブ・エクストラヴァガンザ」に加わります。しかし、映画がまだ撮影中だった1988年12月21日、ニューヨークのダッチェス・ホテルの客室のベッドの下から、死後4日経過した絞殺遺体となって発見されました。
売春の客によって殺害されたことは明らかでしたが、犯人はつかまっていません。キャンディの最期はこのエピソードを元にしたものですが、アンジェリカ・ロスはあえてヴィーナスそっくりの髪形にしています。
⑦フレデリカ→レオナ・ヘルムズリー、ジェシー・ヘルムズ
パティ・ルポーンが演じ、シーズン2に登場したフレデリカのキャラクターのモチーフになっているのではないか、と言われている人物が2人います。
■レオナ・ヘルムズリー
Behind Queen of Mean Leona Helmsley, a $5B estate and her dog Trouble https://t.co/meurGLoLVJ pic.twitter.com/wlIUJ52WWP
— New York Post (@nypost) July 14, 2021
一人は「性悪の女王」のニックネームがつけられた不動産界の有名ビジネスウーマンのレオナ・ヘルムズリーです。
不動産王だった夫とともに、エンパイアステートビルや数々のホテルなど高級不動産を手掛けていましたが、強欲さと欺瞞で知られ、実際、1989年に脱税で懲役4年の判決を受けています。
2007年に亡くなったとき、子どもたちに差し置いて、愛犬だったマルチーズに最高の遺産額を残したことで、その性悪ぶりがさらに知られるところとなりました。
■ジェシー・ヘルムズ
もう一人、ジェシー・ヘルムズは、5期を務めた共和党の元上院議員です。
ヘルムズがLGBTQの権利に否定的だったことから、1991年、ACT UPの活動家たちが、彼の自宅を巨大コンドームで覆うという抗議活動を実際に行いました。
⑧ミズ・フォード→アイリーン・フォード
Eileen Ford, founder of Ford Model agency, is dead at 92 http://t.co/gUSTDCb8sv pic.twitter.com/aQufJj0y0y
— NBC News (@NBCNews) July 10, 2014
エンジェルが契約するモデル事務所のエージェント、トゥルーディー・スタイラー扮するミズ・フォードのモデルは、言うまでもなくアイリーン・フォードです。
大手モデル事務所「フォード・モデルズ」の創設者であり、ファッション業界の重鎮として長らく君臨していました。80年代のスーパーモデル・ブームの仕掛け人の一人とも言われています。
2014年に92歳で死去しました。
⑨⑩クィンシー&チリー→『パリ、夜は眠らない。』の少年2人
#ICADaily is back https://t.co/ajsfj5zib4
— ICA (@ICALondon) November 9, 2020
Still: Paris is Burning, dir. Jennie Livingston, 1990 pic.twitter.com/JImIJSlZ30
最後に、シーズン2のラスト、ブランカの前に突然登場する、まだあどけない少年と少女、クィンシーとチリーです。2人は、『パリ、夜は眠らない。』に登場する、印象的な2人の少年を彷彿とさせます。
ブルーのTシャツと白いタンクトップを着た2人の少年のその後については、さまざまな憶測があり、実際はよくわかっていません。
一説には、ブルーのTシャツを着た少年は、現在「ハウス・オブ・ニンジャ」のメンバーとして活躍しているイトー・ニンジャだと言われていますが、真偽のほどは明らかではありません。
改めて観たいドラマ『POSE/ポーズ』と映画『パリ、夜は眠らない。』
こうした事実を頭に入れて、もう一度ドラマ『POSE/ポーズ』とドキュメンタリー映画『パリ、夜は眠らない。』を鑑賞してみてはいかがでしょうか?
『POSE/ポーズ』は、Disney+において2022年9月14日から全シーズンが配信されています。
『パリ、夜は眠らない。』は2022年9月現在、オンデマンドで配信しているところはなさそうですので、DVDやブルーレイを入手する必要があります。
改めて観ると、また違う見方と感想を覚えるのではないでしょうか?
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